創世の島
やられたー。少々読者を選ぶ気もしますがこれは面白いです。
世にも奇妙な"口頭試問"小説。
2075年、世界は戦争と疫病で壊滅している。世界の片隅にある富豪プラトンがつくった楽園の島には、幸運な生存者たちが集まっていた。彼らは海上にバリアを張り巡らし、武力でよそ者の侵入を拒み、内部には厳格な階級制度を持って秩序ある"共和国"を維持している。滅亡した人類が、再び文明をやり直す、第2の創世の島だ。
あるとき、島の少女アナクシマンドロス、通称アナックスは、島を統治するエリート養成機関"アカデミー"に入学するために、4時間にわたる口頭試問に挑戦する。島の支配階級への登竜門だ。最難関の試験で彼女が選んだテーマは歴史学、島の歴史に大きな影響を与えた人物「アダム・フォード」についての研究だ。アダムフォードは島に漂着した外の世界の少女を助けて、共和国社会にカオスをもたらした事件で知られる。
アナックスは試験官から、共和国の歴史、社会の在り方、アダム・フォードの評価、文明論、存在論など、幅広い知識や思想を試される。この小説は最初から最後までひたすらに、アナックスと3人の試験官との対話だ。緊張感のあるやりとりから、次第に"共和国"や登場人物たちの驚異の背景が明らかになっていく。
明るい表紙だが、中身はかなりハードSF設定。プラトン、アリストテレス、アナクシマンドロスなど登場人物の名前からもわかるように、この本は全体がギリシア哲学のパロディである。そしてテーマは人工知能と存在論であり、マーヴィン・ミンスキー、リチャード・ドーキンスが好きな人におすすめしたい。
ニュージーランドの作家バーナード ベケットは本書でエスター・グレン賞を受賞。
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