2010年8月アーカイブ
週末に東京国立博物館で開催中(~9月5日まで、その後、九州、奈良へ)の誕生!中国文明 特別展へ出かけてきました。とてもよかったです。ちょっとピンポイントですが、諸星大二郎の中国古代史系漫画が好きな人は絶対に観に行くべきでしょう。金縷玉衣や神獣など作品に登場するあれらが間近で見られます。
展示には王朝の誕生、技の誕生、美の誕生という3つのテーマが設定されています。私は音声ガイドを借りました。20の展示についての解説を聞けるものですが、"親子セット"の子供用は別収録のやさしい内容になっています。一緒に行った小学1年生の息子も、その音声ガイドに沿って、ゆっくり鑑賞してくれたのが助かりました。
神権政治の商王朝時代の骨占いにつかった卜骨。「鼎の軽重を問う」の鼎。爵位の由来の爵。知識としては知っているけれども、実物はこれか、と思う展示が多くありました。私のお気に入りベスト3は、迫力系の金縷玉衣(夜動きそう)、七層楼閣(重力に逆らった建築)、九鼎(周王以外は9つつくってはいけないはずの土器)。
この本は代表的な展示物を解説しています。新石器→夏→商(殷)→西周→春秋戦国→秦→漢→三国→南北朝→隋→唐→五代十国→北宋という流れの中で、各展示物が時代区分のどこに位置しているのかが明確になります。
・古代中国の虚像と実像
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/12/post-1131.html
・スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン―人々を惹きつける18の法則
この本は「現実歪曲フィールド」の異名をとるジョブズの伝説的なプレゼンの数々を徹底分析した著者が、その極意を一般人にやさしく解説する本だ。
イベント発表用プレゼンなのに情報を盛り込み過ぎて印、刷用文書のようなスライド=「スライデュメント」をつくってしまう失敗は、誰もが経験したことがあるのではないだろうか。その対極にあるのがシンプルに研ぎ澄まされたスティーブ・ジョブズのプレゼンである。
あの驚くべきわかりやすさと強烈なインパクトはどこからくるのか。この本にはジョブズとゲイツのプレゼンを平均単語数、語彙密度、難解語、難読指数、言葉の複雑度で比較するという興味深い試みと納得の結果が示されている。ジョブズのプレゼンのキレはデータ解析でも示せるものだったのか。
ジョブズ流の基本は
・計画はアナログでまとめる
・一番大事な問いに答える
・救世主的な目的意識を持つ
・ツイッターのようなヘッドラインを作る
・ロードマップを描く
という5つの方法。それらを実現するためのたくさんのテクニックが紹介される。プレゼンの作り方、話し方ももちろん大切だが、アイコンタクト、しゃべる姿勢、手振りなどノンバーバルコミュニケーションも重要な要素だ。
そして何より納得したのはジョブズが5分間のデモのために数百時間の練習をしていること。そこに書かれた文字を読み上げるようなプレゼンをしてはいけない。そのためには台本を捨てる、徹底的に頭に叩き込む、だからシンプルなスライドになる、ということなのだ。
実践すれば誰でもジョブズとはいかないが、とりあえずプレゼンのキレのよさを身につけたい人にはよい本だ。だいたいジョブズ流のコツが形式知としては理解できた。あとはMac、iPod、iPhone、iPadのような製品を連発できる会社のCEOになるだけだ。
・ザッポスの奇跡 The Zappos Miracles―アマゾンが屈したザッポスの新流通戦略とは
これは今年初めに読んで、感動して「いいよ」と何冊も周囲に配った本です。
2009年に米国アマゾンに900億円で買収された靴のオンラインストア ザッポスの伝説。同社はCEOをはじめ500人以上の社員がツイッターでコミュニケーションをしているソーシャル戦略の会社としても有名ですが、この本はもっとザッポスにとって本質的な"人の力を主電源とする感動サービスの仕組み"を描いている。ツイッター戦略はその戦略からでてくるものだ。
CEOのトニー・シェイは90年代後半バナー広告交換コミュニティとして大成功を収めてマイクロソフトに買収されたリンクエクスチェンジの創業者でもある。私は最盛期のリンクエクスチェンジの米国オフィスを訪問したことがあるが、ユーザーからの熱烈なファンレターをオフィスにたくさん貼りだしていた様子を思い出した。顧客満足に重心を置いた経営は出発点から変わらない。
お客様に感動を与えるために「顧客を満足させるためなら、ほとんど何をやってもよい」ほど大きな裁量権を与えられたコールセンターのメンバーたち。彼らが作りだすドラマは、ソーシャルネットワークに紹介されて増幅される。
「「ザッポスのCLT社員は、もし仮に顧客が求めている靴が、ザッポスに無かった場合に、必ず他社のサイトを最低三個はチェックして、その靴を入手できるところがないかどうか調べるように、教育されています。」とCEOのトニー・シェイは言う。」
顧客は今回は他のサイトで買っても、次回も必ずザッポスに電話をかけてくる。目先の利益ではなく、長期的に熱烈に顧客に愛されることを優先する。ザッポスではコールセンターが会社のコアを形成している
徹底したカスタマーフォーカスと同時に徹底した従業員フォーカスも特徴だ。企業は本来、運命共同体であるはずなのに、経営トップや投資家ばかりが甘い汁を吸って、社員に還元されないこれまでの企業とはまったく異なる。従業員が幸せでなければ、お客様を幸せにできない。
ザッポスはコミュニティ的な企業だ。どんな会社を作るのかということを全員で考え続ける企業だ。考え続けることが経営戦略なのだ。そうすることで共同体としての企業の力を引き出している。「カルチャーを創造できれば、ルールをゼロにできる」のだ。
"企業文化が強み"というのは本来は日本の大企業のお家芸でもあったはずだが、成果主義やリストラを濫用して、すっかりその強み、信用が失われてしまった。当面の失地回復は難しそうだ。むしろ、皆でオールを漕いでいる感覚のでるベンチャー企業の方が、企業風土は信憑性を持ちやすいと思う。トニー・シェイみたいに、コミュニティ型リーダーシップで経営センスを持った人が日本でもそろそろ登場してくるのではないか。
翻訳ではなくて日本人が書いているのも驚き。
Googleの急上昇キーワードのランキングを見るソフトウェア。
他にもトレンドを見るアプリはいくつもあるが、Trend Viewer Liteの特徴は、キーワードを画像で見せてくれること。人名ならば顔がわかるし、モノならば商品画像が表示される。キーワードが"コト"の場合も関連する場所などの画像が表示されたりして、流行りもののの中身が具体的にわかるようになっている。
使ってみて、文字だけではなくて、画像があるからこそ興味を持つキーワードって結構多いなと思った。気になる情報はGoogleやGoogleニュース、WikpediaやAmazonで検索して、結果を内蔵ビューアで見たり、Twitterに投稿することもできる。
電車待ちなど、iPhoneでひまつぶしがてら、トレンド情報をアップデートができるアプリ。
読み終わってページを閉じたとき、思わず本を抱きしめたくなる、いい本です。
現在40歳前後で80年代後半に東京で大学生だった人に特におすすめです。
横道世之介はこれといった取り柄のない普通の大学生(おそらく法政大学)。長崎から上京して一人暮らしを始めた1年生の12カ月が毎月1章で語られ、計12章でこの小説は構成されています。
一人暮らし(東久留米)、アルバイト(高級ホテル)、サークル活動(サンバ愛好会)、夏休み、旅行、学園祭、自動車教習所...。友情と恋愛もいくつも経験します。世之介の大学生活はそれなりにユニークなものですが、当時の大学生ならどこか自分の体験に似た懐かしさを感じさせるシーンの連続でもあります。
大人になって学生時代の思い出を振り返るとき、あいつはいい奴だったなあ、でも今どうしているだろうかと、みんなに思われるのが、世之介です。草食系のおひとよし。周りに人は集まってくるし、女の子だって寄ってくるのですが、淡い交わりでよしとしてしまうから、記憶に薄くしか残らない。
横道世之介は、20年前の思い出の中に、忘れものを取りに行くような体験ができる小説です。多くの初体験の不安や期待を思い出させてくれて、懐かしさがこみ上げてきます。そして、当時は自分のことばかりに必死で見逃していた細部にも、きっと多くのドラマがあったのだということを教えてくれる作品です。
いい本読んだなあとしみじみ。
・学問
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/12/post-1130.html
感動青春小説としてはこの作品が好きな人におすすめ。
・Civilization Revolution for iPad - 2K Games
文明発展シミュレーションのシヴィライゼーションがiPadで遊べるようになりました。英語版ですが、かつて遊んだことがある人ならプレイは余裕でしょう。難易度を細かく選べるのがうれしい。
プレイヤーは、ユニットを動かして町を作ったり占領して、経済力を高め、文化や産業の振興を通じて、数千年間という期間に文明を最大限まで発展させることが目的のゲームです。他国との戦いや同盟、発展競争という要素もあります。
文明が発展していくにつれて生産できるユニットが頼もしくなっていきます。最初は古代の歩兵だったのが、次第に近代的な戦闘ユニットに進化。選べるユニットが増えたり、アップグレードされます。
そしてこのゲームの最大の魅力はテクノロジー・ツリーの選択の画面。どんな発明発見を行って、文明を発展させていくかを決定します。アルファベットを発明すると、法律や文学が生まれて、やがてそれが民主主義やコンピューターに進歩していきます。
電車通勤で、本を忘れた日は、これやっています。
ペリーの日本遠征に随行した画家の「下田の公衆浴場」という絵には、全裸の男女が秘所を隠すこともなく混浴の浴場でくつろぐ様子が描かれている。若年や中年の男女が多いが、誰も互いの裸体に欲情していないし、恥ずかしさも感じていないことがみてとれる。この絵を見たアメリカ人は日本人を「淫猥な人たちだ」といい、フランス人は「日本人に羞恥心はない」といい、オランダ人は「男女の性別を気にしていない」といって驚き、そして軽蔑した。
150年前の日本では「男女が無分別に入り乱れて、互いの裸体を気にしないでいる」のは普通だったのだ。江戸時代の日本人にとって、裸体は顔の延長のようなものであり、現代人の我々がスッピンの顔を見られても恥ずかしくないように、裸を見られても平気だった。
江戸時代の日本人がいかに裸に対しておおらかだったか、具体的な記録から明らかにされる。若い娘が道端で裸で行水をしているのを見て度肝を抜かれた外国人の日記や、坂本竜馬が妻(お龍)と男の友人の3人で京都の混浴浴場へ出かけた記録など、現代人の感覚とはかなり異なる意識が常識だったことがよくわかる。
ところが開国によって西洋文明の視線にさらされたとき、明治政府はこの風習を西洋に劣るものとして改めなければならないと考えて「裸体禁止令」を法律で定めた。また登場したばかりの写真技術が裸体を日常品の裸から、鑑賞の対象物としての「ハダカ」へ移行させた。
「明治政府によって強制的に隠された裸体こそが「見るなの座敷」であった。そしてこれが正しいとすると、神話や昔話が説くように、隠された裸体は覗きたくなり、やがて約束は破られる───。明治から現代に至る日本人の裸体は、まさに神話や昔話と同じストーリーをたどることになる。」
隠されれば見たくなる。そしてハダカは性と結びつき欲望の対象へと変化した。見られる方も、隠すことが常識になった途端、人前にさらすのが恥ずかしくなる。それまでのオープンさの反動のように、明治の日本政府は裸体に対して敏感になり、禁止や検閲を厳しくする。人々の意識は大きく変容し、明治も26年にもなると画家 黒田清輝が女性の水浴びを描いた「朝妝」が風紀を乱すものとして物議をかもした。政府ではなくメディアと世論が裸体画に異を唱えていたのだ。
性が再び解放された現代でもアダルトビデオでは秘所をモザイクで隠している。そもそもハダカが商品になること自体が、この明治政府の西洋化政策の影響の延長にあるといえるだろう。私たちは、異性のハダカに欲情してしまうことを、自然の摂理だと思いがちだが、実はこの日本においては、つい150年前まではそうではなかったという意外な事実がわかる啓発的な本だ。ハダカヘの欲情は文化発祥なのだ。
子供への性教育でもこれを教えたらいいのではないだろうか。
・裸体とはじらいの文化史―文明化の過程の神話
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/09/post-1064.html
・セクシィ・ギャルの大研究―女の読み方・読まれ方・読ませ方
http://www.ringolab.com/note/daiya/2010/02/post-1151.html
・セックスと科学のイケない関係
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/05/post-987.html
・性欲の文化史
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/07/post-1020.html
・日本の女が好きである。
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/06/post-1010.html
・ナンパを科学する ヒトのふたつの性戦略
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/04/post-972.html
・ウーマンウォッチング
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/03/post-958.html
・愛の空間
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/04/oso.html
・性の用語集
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004793.html
・みんな、気持ちよかった!―人類10万年のセックス史
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/005182.html
・ヒトはなぜするのか WHY WE DO IT : Rethinking Sex and the Selfish Gene
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003360.html
・夜這いの民俗学・性愛編
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/002358.html
・性と暴力のアメリカ―理念先行国家の矛盾と苦悶
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004747.html
・武士道とエロス
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004599.html
・男女交際進化論「情交」か「肉交」か
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004393.html
古き良き昭和モダンの設定+メタレベルの仕掛けがよく効いている。面白かった。
「わたしが奉公に上がった時代、昭和の初めになれば、東京山の手のサラリーマン家庭では、女中払底の時代になっていたのだから、「タキや」と呼びつけにされるようなことは一切なく、かならず「タキ」さん」と、「さん」づけで呼ばれ、重宝がられていたものだ。東京のいいご家庭なら、だいたいそうであろう。わたしがその仕事についた時代は、「よい女中なくしてよい家庭はない」と、どの奥様だって知っておられたものだ。」
昭和初期、赤い三角屋根の小さなおうちで住み込み女中をしていたタキが、60年後に遠い昔を振り返る回想録がこの作品の大半を占める。とてもお上品な「家政婦は見た」。この家の女中であることに満足し、終の棲家とまで考えていたタキは奉公先で大切にされて、家族同様に暮らす。
だが、美しい奥様、玩具会社常務の旦那様、手のかからないおぼっちゃまと4人で過ごした幸せな日々に、やがて戦争の暗い影が忍び寄る。小さなおうちの一家にも激動の時代が訪れ、そのうねりの中で、やがてタキは、幸せそうな家族が内に秘めていた感情を知ることになる。
女中タキの長い昔話。よく再現された昭和モダンの懐古作品としても非常に味わい深いものがあるのだが、最終章でこの語りの本当の意味が明かされる。最終章がなくても80点の小説だが、メタレベルのラストが作品に奥行きを与えて、見事100点となる。納得の直木賞受賞作。
「本書は、高望みはせずに定型的な文章を書くことでよしとする。一定の言い回し(表現の型)を踏まえれば、誰にもそこそこの文章が書ける。文章を書くとは一定のマニュアルに従って定型表現をつなぎ合わせることだ。世の文章指南書のお勧めやタブーにあちらこちらで異を唱えながら、本書が説くのは「型」を重視する「パッチワーク的文章術」だ。」
読みやすい、分かりやすい、説得力がある"達意"の文章を書くための指南書。
・一文を短く書く
・使い古された言い回しを上手に使いこなす
・主観的、曖昧な日本語を、英語のように客観的、論理的に書く
・文の単位は長い順で並べる
といった指導がある。わかりやすく、誰でも実践できる方法論ばかりだ。
特に曖昧さ回避で、わかりやすくは基本だと思う。
川端康成『雪国』の「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。」は、主語として「汽車」が省略されていると著者は指摘する。英訳ではちゃんと"The train came out of the long tunnel into the snow country."になっているそうである。日本語は述語以外はいくらでも省略可能なので、あいまいになりがちであるから、「和文和訳」のつもりでわかりやすくを心がけなさいとすすめる。
意味を伝達する達意の文章は、表現で感動をうむ文章とは違うから、書いていて味気なく感じる。そこで、味を出そうとして、ヘンな味になって、不味くなっているのが多くの素人の文章なわけだ。下手に味を狙わずに、まずは無味無臭で機能的な作文を心がければ、文章力の基本ができて、さらに上を目指せる。この新書はそうした基礎固めのガイド本である。
・<不良>のための文章術
http://www.ringolab.com/note/daiya/2010/07/post-1275.html
・アートを書く!クリティカル文章術
http://www.ringolab.com/note/daiya/2010/02/post-1152.html
13日間で「名文」を書けるようになる方法
http://www.ringolab.com/note/daiya/2010/01/13-1.html
・言語表現法講義
http://www.ringolab.com/note/daiya/2010/01/post-1144.html
・文章をダメにする三つの条件
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/10/post-860.html
・文章は接続詞で決まる
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/10/post-856.html
・文章読本 (三島由紀夫)
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/09/post-837.html
・自家製 文章読本
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/07/post-797.html
・文章のみがき方 - 情報考学 Passion For The Future
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/04/post-737.html
・自己プレゼンの文章術
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004915.html
・日本語の作文技術 - 情報考学 Passion For The Future
http://www.ringolab.com/note/daiya/2007/10/post-641.html
・魂の文章術―書くことから始めよう - 情報考学 Passion For The Future
http://www.ringolab.com/note/daiya/2007/05/post-564.html
・「バカ売れ」キャッチコピーが面白いほど書ける本
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004702.html
・「書ける人」になるブログ文章教室
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004805.html
・スラスラ書ける!ビジネス文書
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004499.html
・全米NO.1のセールス・ライターが教える 10倍売る人の文章術
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004488.html
・相手に伝わる日本語を書く技術
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003818.html
・大人のための文章教室
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/002489.html
・40字要約で仕事はどんどんうまくいく―1日15分で身につく習慣術
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/002286.html
・分かりやすい文章の技術
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/001598.html
・人の心を動かす文章術
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/001400.html
・人生の物語を書きたいあなたへ ?回想記・エッセイのための創作教室
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/001383.html
・書きあぐねている人のための小説入門
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/001082.html
・大人のための文章法
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/000957.html
・伝わる・揺さぶる!文章を書く
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/002952.html
・頭の良くなる「短い、短い」文章術―あなたの文章が「劇的に」変わる!
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003740.html
怪談と挿し絵で、「怪、刺す」。
『新耳袋』で有名な怪異蒐集家・木原浩勝と、ホラー漫画の伊藤潤二がタッグを組んだ怪談絵噺。テキスト6,7ページ、数枚の挿し絵があって一話という独特のスタイルで九話。短いがどれもクライマックスがゾクっと怖い。
この二人の組み合わせは相性がいいと思う。伊藤潤二単独のホラー漫画は『うずまき』みたいに、現実離れしていてファンタジーだ。自分の身におきるんじゃないかというリアルな怖さがうすい。この作品では実話を怪談作品に仕立てる名手、木原浩勝の原作を描くことで、本物の怪談になった。
私は怪談が大好きだ。子供の頃、夏休みにお昼のワイドショーで放送していた「あなたの知らない世界」をかかさずに見ていた。身近に起きそうな心霊や呪いの話にびびりながら、絶対安全な自宅の茶の間で、これまた怪談好きだった祖母と一緒に、かき氷なんかを食べながら見ていた。原体験が、そういう実体験ベースの再現映像にあるせいか、実話のクレジットがないと興味がわかない。創作だと全然怖くないし、聴く価値さえ感じないのである。
そういう実話怪談へのこだわりの人におすすめである。新耳袋に視覚要素が加わって一層よいかんじ。静かな深夜にひとりで読もう。騒がしい電車とか、おしゃれなカフェで読むべきではない。もったいない。ふと目をあげたとき暗い窓の向こうになにか見えそうで怖くなる、そんな本だから。
この二人には続編を毎年夏に出してほしい。
スペシャルとして、巻末に伊藤潤二の読切り漫画もついている。
・実話怪談「新耳袋」一ノ章
http://www.ringolab.com/note/daiya/2005/10/post-298.html
労働者の悲哀と呻き。まさにブルース。実体験ベースの劇画。
著者、渾身のデビュー作。
理系大卒で工事の現場監督に送り込まれた主人公(24歳)の悲惨な日常が描かれる。
慢性的な睡眠不足、失敗、職人の罵倒、暴力、土下座...。
精神的にも肉体的にもボロボロだが、ひとつの仕事を3年は続けないと転職が難しいと思って、主人公は耐え続ける。なんのために働いているのかわからないから、自分の不遇のなにもかもが、不合理と悪意にみえてくる。
作者の体験がもとになっているだけに、主人公の不安や怒りが生々しく伝わってくる。何度かある修羅場では、読みながら思わず拳を握りしめてしまったほど。主人公は安易な気持ちで就職活動をしていた自分をくやむ。
だが、この漫画は『蟹工船』のような資本家に対する抵抗のプロレタリアート文学ではない。自分が変われば、世界が変わるという自己改革思想の作品である。主人公は悪戦苦闘の末に、自分なりの働き方、生き方をみつける。後半の転職活動の展開は、ブラックな職場に入って出口が見えなくなっている人に希望を与えるものでもある。
ブルーカラーにせよホワイトカラーにせよ、内発的な動機で働かない限り、どんな仕事もブルースだ。逆にいえば、かなりの逆境でも人はそれを糧にして成長、成功できるということでもある。この著者が凄いのは、過酷な体験を、漫画作品に昇華して、人々に支持され、賞を取ったことだ。(第一回ネクストコミック大賞の期待賞を受賞)。
期待賞。まさに次回作に大変、期待してしまう。この著者ならば、まだ描くネタを使い果たしてはいないはずだと厚みを感じる。
「『通話』―スペインに亡命中のアルゼンチン人作家と"僕"の奇妙な友情を描く『センシニ』、第二次世界大戦を生き延びた売れないフランス人作家の物語『アンリ・シモン・ルプランス』ほか3編。『刑事たち』―メキシコ市の公園のベンチからこの世を凝視する男の思い出を描く『芋虫』、1973年のチリ・クーデターに関わった二人組の会話から成る『刑事たち』ほか3編。『アン・ムーアの人生』―病床から人生最良の日々を振り返るポルノ女優の告白『ジョアンナ・シルヴェストリ』、ヒッピー世代に生まれたあるアメリカ人女性の半生を綴る『アン・ムーアの人生』ほか2編。 」
ラテン・アメリカの知る人ぞ知る小説家ロベルト・ボラーニョの短編集。
ボラーニョという作家を知りたくて読んだが読んだ後の方が、果たしてどういう作家だったのかわからなくなった。作風がバリエーションに富んでいて、どれも濃密。「ウディ・アレンとタランティーノとボルヘスとロートレアモンを合わせたような奇才」と評されたいたそうだが異能の複合体である。
ボラーニョは1949年にチリのサンティアゴで生まれて、メキシコへ移住、その後エルサルバドル、フランス、スペインなどを放浪して過ごした後、1984年小説家デビュー。90年代後半になって文学賞をいくつか受賞して、作家として注目を集めたが、2003年に50歳の若さで亡くなった。
この短編集は作風が雑多な印象があるが、敢えて言えば常にマイノリティの側に立った描き方をするのが特徴だ。無名の売れない作家や迫害される亡命者など、主人公たちはメジャーに対するマイナーの視点ででてくる。だが、彼らは不遇や権力に抵抗するというわけでもなくて、境遇を受け入れたうえで、そこに生きる意味を見出そうとする。マイノリティのしたたかな生きざまの文学である。
・横井軍平ゲーム館 RETURNS ─ゲームボーイを生んだ発想力
長い絶版時期にはオークションで8万円の値をつけた名著の復刊。
任天堂といったら宮本茂と並んで、横井軍平。「枯れた技術の水平思考」という有名な言葉でも知られる。ウルトラハンド、光線銃と数々のおもちゃでヒットを飛ばし、任天堂が電子ゲームの方向へ向かう「ゲーム&ウォッチ」をつくり、「ドンキーコング」をつくり、さらには「ゲームボーイ」をつくった伝説のゲームデザイナー。
任天堂への就職から次々に開発した商品を時系列で、本人の談を交えながら紹介している。花札メーカーの任天堂に設備の保守点検係として就職した横井は、大学で学んだ理系の知識を持てあましていたそうだ。あまりに暇な日常業務の日々に、旋盤を使いにゅっと伸びるマジックハンドを自作して会社で遊んでいたら、それを見た社長の「商品化しろ」という命令が横井の人生を大きく変えた。
横井軍平は技術者でなくプロデューサーであることに徹した。
「私の仕事のやり方は、「私はこれ以上詳しいことはわからないから頼む」とまかせてしまうんです。で「結びつきは私にまかせてくれ」という持ち場の分担をするわけです。そうすると各グループなんとかしようと最高の知恵を出してくれるんですね。これが「こうやれ」と高圧的に命じてしまうと、そのグループは動かない。」
職人的なクリエイターかと思っていたが、そうではなくて、人を用いる、育てることにも熱心な人だったのだ。ヒット商品をうみだすにあたっては、常に技術的な面よりもマーケティング的な面を強く意識している。
「私が商品開発をしているときも、技術者にユーザーが何を求めているかを伝えることは簡単です。しかし、「ユーザーが何を求めていないか」を探し出すのは非常に難しい。例えばモノクロとカラーのどっちがいいとなったら、誰でもカラーがいいと言うに決まっている。「そのデメリットは電池が早くなくなって、製品価格が高くなって」と説明できる人は少ない。それを自分なりに判断して、「ユーザーはこう言っているけど、本当のニーズはこうなんだ」ということを技術者に説明するインターフェイスの役目をする人間が絶対必要なんです。」
お客様の声を聞いているだけでは、イノベーションは生み出せないのだ。
ヒット商品開発の現場での成功や失敗が赤裸々に公開されていて、ものづくりをするひとに勇気を与えてくれる素晴らしい本。クリエイター必読。
『課長島耕作』『サラリーマン金太郎』『釣りバカ日誌』『かりあげクン』『宮本から君へ』『ボーイズ・オン・ザ・ラン』『働きマン』『ぼく、オタリーマン。』『特命係長只野仁』......。時代を写す鏡としてのサラリーマン漫画の変遷が作品の絵も交えて丁寧に語られている。漫画好きが頭の中の知識を整理し文化史に昇華できる本だ。
著者はサラリーマン漫画史における最も重要な作品として『課長島耕作』(弘兼憲史)シリーズが挙げられている。バブルとその崩壊の時代を人気を保ったまま、部長、取締役、専務、そして社長へと出世してきた。
課長島耕作の成立について、1950年代から60年代に人気作家だった源氏鶏太のサラリーマン小説に源流があると著者は指摘する。高度経済成長の日本。終身雇用、年功序列の安定した組織の中で、人柄のよい主人公が、悪徳社員と敵対して、いろいろあるが人柄力で乗り切って、最後は勝利するという勧善懲悪的な物語。その「源氏の血」を受け継いだのが島耕作だったのだという。
そしてクールにサラリーマン生活を謳歌する島耕作に対して、熱く感情的に生きる『宮本から君へ』や『サラリーマン金太郎』など従来の安定したサラリーマンの枠組みに縛られない作品が登場する。バブルの崩壊と不況の長期化、働き方の多様化で、時代の最大公約数としてのサラリーマンという前提が崩れてしまうと、『働きマン』『ぼく、オタリーマン。』のような多様な生き方を肯定する作品も広がっていく。時代の流れに位置付けて見せられると、サラリーマン漫画は、まさに日本の時代の鏡になっていることが実感できる。
正社員比率が下がり続け、その正社員でさえ長期展望が見えなくなっている今、サラリーマン漫画は、これまでのように幅広い層の共感を集めることが難しくなってしまっているようだ。紅白歌合戦の視聴率と典型的サラリーマンの率って同じような下降線をたどってきたのかもしれない。かといって、フリーや起業がボリュームゾーンになるとも思えない。サラリーマン漫画も当面はバリエーション豊かに混迷の時代に突入するのだろうか。読者としてはいろいろな路線が読めて面白いのだけれど...。
このアプリも私のiPadのメニュー1ページ目に確定です。
米国の主要ニュースサイトやツイッターを、電子書籍によくあるページめくりインタフェースで読めるようにするiPadアプリです。ソースとなるサイトやツイッターアカウントから、画像とテキストをうまいこと読み込んで、雑誌のような絶妙なレイアウトに自動変換して見せてくれるのが、素晴らしいのです。特に一画面にテキスト情報が多いニュースサイトは、ビジュアルなインタフェースで数記事ずつ、ぱらぱらめくっていくほうが、興味あるコンテンツを見つけやすいですし、情報収集の作業として快適です。
プリセットメニューには、FascCompany、Economist、TechCrunch、BoingBoing、ReadWriteWeb、HuffingtonPostなど英語圏の主要なニュースサイトや有名ブログが登録されていて、選択表示できるようになっています。
そして、ツイッタービューアーとして使えるのがもうひとつの大きな魅力です。これは私のツイッターアカウントの例ですが、画像が入って、雑誌ライクなレイアウトになると、フォロー数が多くなって読む気が失せてきたタイムラインも、楽しく読み進めることができるようになりました。
このアプリや、以前紹介したPulseNews や CoolHunting などを使っていると、ニュースリーダーのUIはタッチデバイスで大きく変わっていきそうな予感がしてきます。
・iPAd ビジュアルなインタフェースでニュースやブログを読む Pulse News Reader
http://www.ringolab.com/note/daiya/2010/06/ipad-pulse-news-reader.html
・iPadでクールなモノ・コトを探す電子雑誌 Cool Hunting
http://www.ringolab.com/note/daiya/2010/06/ipad-cool-hunting.html
アメリカの新聞の凋落ぶりは日本の比ではないということがよくわかる本だ。
NYタイムズは3年間で社員の3分の1をリストラ、サンフランシスコ・クロニクルも社員の半数を解雇、シカゴトリビューンは破産、ワシントン・ポストは全支局を閉鎖...。2009年だけでアメリカの日刊紙は50紙が廃刊してしまったそうだ。紙では採算があわないのでインターネット版での発行へ移行する新聞社が多いが、有料化はうまくいっておらず、従来の高コスト体質では新興ネットメディアにかなわない。未来は相当に厳しいようだ。
米国ではまず中小の地方紙が次々に廃刊に追い込まれている。地域の住民たちは地元の情報が入ってこなくなってしまったと嘆いている。新聞を補完するといわれるブログやツイッター、新興ニュースサイトでは注目が集まらない場所の情報は出てこなくなる。地方行政への影響も懸念されている。
米国の新聞業界事情、収益構造が異なる日本の新聞業界事情、そして米国とアメリカの新聞はどうなっていくのかを、ファクトとデータをもとに、NHK報道局勤務の著者が考察している。新聞の未来を考える最新の材料としておすすめ。
新聞にとっては暗い話題が多いのだが、あとがきに興味深い事実が出ていた。先進国では消滅していく紙の新聞だがブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカなどでは発行部数が増えているのだ。インド、中国では発行部数が1億部を超えている。人口が多い国での増加傾向を考えれば、実はグローバルではむしろ新聞発行って増えていくのではないか。アメリカや日本ではそろそろ終わりでも、世界規模では新聞がこれからのメディアなのかもしれない。
最近、私の家では紙の新聞を取り始めた。しかも朝日新聞と朝日小学生新聞の2紙。私は90年代から紙の新聞をとっていなかったが、それは皆が読んでいる情報に希少性がないと思っていたからだ。だが、皆が新聞を読まなくなっていくなら(若年層は数パーセントしか読んでいない)、むしろ新聞に書かれている情報は貴重である。1000万部のメディアとして残れなくても、私みたいなアマノジャク読者の市場は、少なくとも今の若年層読者より多いのではないだろうか。日本の新聞は結局100万部くらいのメディアに落ち着くんじゃないかなあ。
次に来るメディアは何か
http://www.ringolab.com/note/daiya/2010/05/post-1224.html
色モノだけど大傑作。面白い娯楽小説をお探しならぜひ読むべきです。
それにしてもなタイトルなのでカバーをつけないと外で読めませんが、横着な私はカバーはつけないで、帯をずらすことで背のタイトルを隠しながら(日本の、だけ見える状態にする)、電車で読んでいました。でも、それだとやっぱり、前の人に「のセックス」を読まれちゃうかもしれないですし、卑猥な言葉ばかりの本文が隣からのぞかれちゃうんじゃないかとドキドキで、落ち着きませんから、やっぱりカバーをつけてゆっくり読むしかないですね。あ、ちなみにこれは小説です。
美人の妻を他人に抱かせることに無上の喜びを感じる佐藤と、そんな変態の夫に従って300人以上に抱かれ、マニアの雑誌への投稿にも同意する妻の容子(東大卒)。夫につきあわされているようなそぶりでいながら、実は容子も決してキライではないのだ。二人は週末にはスワッピングマニアのコミュニティに参加して、きわどい複数プレイを楽しんでいる。だが、爛れた複雑な人間関係が、やがてこの夫婦を悪夢のような事件に巻き込んでいく。
前半が強烈な官能小説で、後半がシリアスな法廷サスペンスで、最後は純文学もしているというバラエティ豊かな文体複合作品である。前半の官能部はマニア投稿雑誌の体験記のノリで淫猥描写の連続で読者の劣情を煽る。裁判が中心となる後半では、乱交プレイでオスとメスとして性に溺れた男女が、一転して社会生活を営むしらふの顔で登場する。その大きな落差がこの作品の魅力であり、日本のセックスの抑圧度の強さをあらわすものでもある。
むき出しの欲望が全裸になってリビドーを解き放てば、一瞬のカタルシスはあっても、その後には社会的カタストロフしかないという、滑稽で悲劇的なマニアの愛の宿命小説である。
「地球上に生命が誕生してから約20億年間、生物は死ななかった。ひたすら分裂し、増殖していたからだ。ではなぜ、いつから進化した生物は死ぬようになったのか?」。
高等生物は放っておくと寿命がきて自ら死んでしまう。遺伝子にプログラムされた細胞の死=「アポトーシス」の視点から、ヒトの死を考える。新書で一般向け読み物だが、科学から倫理・哲学的意味にまで踏み込む深い内容。
「細胞は、内外から得たさまざまな情報─周囲からの「あなたはもう不要ですよ」というシグナルや、「自分は異常をきたして有害な細胞になっている」というシグナル─を、総合的に判断して"自死装置"を発動するのです。」
ヒトの手も指の間の細胞がアポトーシスで死んでいくことで形成される。カエルやチョウぼ変態も不要になった細胞が死んでいくことで実現されている。「細胞を大めにつくって、不要な部分をアポトーシスによって削る」のである。人体の細胞は1日にステーキ一枚分も死んでいるという。
著者は、このアポトーシスは有性生殖と深い関係があると考えている。単細胞生物時代は単純な自己複製だから死はなかった。進化史上は性とともに死が現れたそうだ。エロスと表裏一体のタナトス。生物はなんと文学的にできているのだろうか。
性=遺伝子の組み換え、死=遺伝子の消去というふたつの原理で、優れた子孫を残していく。個体は長く生きていると、化学物質や活性酸素、紫外線、放射線によって遺伝子がキズをおう。このキズは修復せずに生殖細胞にも変異を及ぼす。老化した個体は遺伝子がキズモノになっている。
「老化した個体が生き続けて若い個体と交配し、古い遺伝子と新しい遺伝子が組み合わされば、世代を重ねるごとに遺伝子の変異が引き継がれて、さらに蓄積していくことになるでしょう。もしこのようなことが繰り返されると、種が絶滅して、遺伝子自身が存続できなくなる可能性もあります。」
だから個体は老いたら死んでいくのが、種全体のためであるということになる。後半では、こうした死の科学を哲学的見地から議論する。ドーキンスの利己的な遺伝子論、クローン人間や不老不死の実現に対する批判的な意見を展開している。この生と死の哲学議論がとても面白かった。
高齢化社会において死とどう向き合うかは大問題だ。不老不死やクローン人間を科学が実現して、死を回避しようとするのもひとつの方法だ。だが、数十年のスパンではうまくいきそうにない。著者のように、死に積極的な意味を見出して、いかに受容していくかを考える方が現実的なことなのかもしれない。
・長寿を科学する
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/10/post-1092.html
・ヒトが永遠に生きる方法―世界一やさしい身体の科学
http://www.ringolab.com/note/daiya/2004/07/post-108.html
・死ぬまでに知っておきたい 人生の5つの秘密
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/12/-5.html
・100歳まで生きてしまった
http://www.ringolab.com/note/daiya/2003/09/100.html
無印良品から販売されている原稿用紙のA4ノート。
久々に原稿用紙に文章を書いている。これが結構調子がよいのだ。これまでノートPC、エアペン、Pomera、iPadとデジタルデバイスで頑張ってきたが、紙の原稿用紙の生産性はなめられないものがあると最近気がついた。
原稿用紙なのだから当然だが、ただひたすらに原稿を書けという強烈なアフォーダンスを発している。印刷されたマス目を無視して落書きするなんて言語道断である。メールやウェブなど見るなんてもってのほかであるし、そもそもネットになどつながっていない。一度ペンで書いたら、消すのは面倒であるから、頭の中である程度考えて書く。テンションが一段階上がるのである。
ただ、ひさびさの原稿用紙であるから、私は常識のはずの書き方を忘れていることに気がついた。そうだよ、段落の冒頭は字下げしなきゃいけないし、句読点は行頭に来ちゃいけないんだよ、他に何があったっけ?と。
Wikipediaによると、原稿用紙の使い方は
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8E%9F%E7%A8%BF%E7%94%A8%E7%B4%99#.E5.8E.9F.E7.A8.BF.E7.94.A8.E7.B4.99.E3.81.AE.E6.9B.B8.E3.81.8D.E6.96.B9
・段落の冒頭は1字下げる(空白を置く)。
・句読点、閉じ括弧などが行頭に来ないようにする。(禁則処理。ただし「。、」などをぶら下げると見落しやすいために、文筆を業とする人々のあいだでは、むしろこの原則を守らないことがルールとなっている。)
・欧文は横書きとし、2文字分を1マスに入れる。
・感嘆符「!」や疑問符「?」のうしろは1マス空ける。
・リーダー(......)やダッシュ(──)は2マス分を使う。
・鍵括弧で始まる「会話文」は直前で改行し、行頭に鍵括弧を配する。会話文が2行以上に渡るときは、行頭を1文字下げる。(なお、同じ鍵括弧を利用する場合でも、心中語や引用では行替えをしない。)
・ふりがなは文字右隣り余白に小さく記述する。
・改行しての長文の引用は1字もしくは2字下げで書く。
であるとのこと。
・ホワイトハウス・フェロー―世界最高峰のリーダーシップ養成プログラムで学んだこと
「ホワイトハウス・フェロー制度は、アメリカに存在する研修制度のなかで明らかに最良のものだ。世界で最も優れた研修制度と言ってもいいかもしれない。この表現はまったく誇張でない。私たちフェローがどういう経験をするか考えてみてほしい。私たちはアメリカ政府の中枢で一年間過ごす。どこへでも好きな場所に出張し、誰でも好きな人物と会える。週に三日はアメリカの最重要人物たちと食事をし、質問したいことはなんでも質問できる。こんな制度は世界のどこにもない。まったくない。」元国務次官補、元ホワイトハウス・フェローのダニエル・サリバンの言葉
とてつもなく厳しい選考試験で選ばれたアメリカの若きエリート十数人が、一年間、政府の最高レベルの中枢で働く機会を得る。彼らは大統領や省庁のトップを補佐しながら、本物のリーダーシップを学ぶ。
研修期間終了後フェローたちは政府や民間から引く手あまたであり、多くが若くして要職についている。フェロー時代につくったVIP人脈とフェロー同士のつながりが、彼らの人生を強く後押しして行く。米国のエリート高速道路の最たるものだ。
ホワイトハウス・フェロー制度で、二十五年間、最終選考会「セレクション・ウィークエンド」に関わった委員によると、審査では、
第一に明晰な文章力、第二に協調性、第三に自己中心的でないこと
の三つの資質を注意してみていたそうだ。一つめは、明晰な文章を書く人間は明晰な思考能力を持っているからだそうだが、意外にも二つめと三つめは人間的な資質が問われている。能力の優秀さは選抜過程で十分に証明されているから、あとは人間性を、ということなのかもしれない。
コリン・パウエルを補佐したフェローは、「ワシントンには、頭のいい人間などいくらでもいる。大事なのは、人々にどういう感情をいだかせるか。リーダーが成功するかどうかのカギを握るのがその能力だ。自分の有能さを見せつける必要などない。リーダーに必要なのは、部下とコミュニケーションを取り、部下のやる気を引き出し、部下に気を配り、参加意識を持たせることだと、パウエル長官は教えてくれた。」と語っている。
元フェローたちが大統領や要人たちから学んだことが、彼らが体験した緊張と感動のエピソードとともに、たくさん紹介されている。やはりそこには非凡なリーダーがいるからなのだろうが、ホワイトハウスのオーラも関係がありそうだ。『教育力』で斉藤孝氏が「教育の根底にあるのはあこがれの伝染である」と書いていたが、学ぶ側の高揚感、緊張感というのはなににもまして教育効果を高めている気がする。
・教育力
http://www.ringolab.com/note/daiya/2007/04/i-1.html
・ホワイトハウスの職人たち
http://www.ringolab.com/note/daiya/2006/11/post-486.html
・ホワイトハウスの超仕事術―デキるアシスタントになる!
http://www.ringolab.com/note/daiya/2006/08/post-432.html
やられたー。少々読者を選ぶ気もしますがこれは面白いです。
世にも奇妙な"口頭試問"小説。
2075年、世界は戦争と疫病で壊滅している。世界の片隅にある富豪プラトンがつくった楽園の島には、幸運な生存者たちが集まっていた。彼らは海上にバリアを張り巡らし、武力でよそ者の侵入を拒み、内部には厳格な階級制度を持って秩序ある"共和国"を維持している。滅亡した人類が、再び文明をやり直す、第2の創世の島だ。
あるとき、島の少女アナクシマンドロス、通称アナックスは、島を統治するエリート養成機関"アカデミー"に入学するために、4時間にわたる口頭試問に挑戦する。島の支配階級への登竜門だ。最難関の試験で彼女が選んだテーマは歴史学、島の歴史に大きな影響を与えた人物「アダム・フォード」についての研究だ。アダムフォードは島に漂着した外の世界の少女を助けて、共和国社会にカオスをもたらした事件で知られる。
アナックスは試験官から、共和国の歴史、社会の在り方、アダム・フォードの評価、文明論、存在論など、幅広い知識や思想を試される。この小説は最初から最後までひたすらに、アナックスと3人の試験官との対話だ。緊張感のあるやりとりから、次第に"共和国"や登場人物たちの驚異の背景が明らかになっていく。
明るい表紙だが、中身はかなりハードSF設定。プラトン、アリストテレス、アナクシマンドロスなど登場人物の名前からもわかるように、この本は全体がギリシア哲学のパロディである。そしてテーマは人工知能と存在論であり、マーヴィン・ミンスキー、リチャード・ドーキンスが好きな人におすすめしたい。
ニュージーランドの作家バーナード ベケットは本書でエスター・グレン賞を受賞。
1987年にベストセラーとなった紀行文学の名著の復刊。
ソングラインとはアボリジニに伝わる、オーストラリア大陸にはりめぐらされた天地創造の道のこと。彼らの先祖たちは、ドリームタイム(神話の時間)になにもない大地を歩きながら、出会ったあらゆるものに名前を与え、歌に歌うことで世界を創造していった。その道は私たちには見えないが、アボリジニたちにとっては何万年も前から、世界の境界線を引く重要な役割を果たしている。
著者のブルース・チャトウィンは、実際のソングラインの放浪体験をもとにして、フィクションとしてこの紀行作品を書いた。オーストラリアの広大な大地とゆったりと流れる時間の中では、自然と人間にとって本質的なものに思索が向かう。アボリジニの神話や生き方に啓発される内容は多い。
作中には世界中を旅したチャトウィンが残した旅のノートの記述が大量に引用されている。そこには哲学者や作家の名言、旅先の人々の会話、見聞きしたことの考察、各地の伝承が、とりとめもなく集められている。
「人生は橋である。それは渡るべきものであって、家を建てるべきところではない。」インドのことわざ
「我々の本性は動くことにある─全き平静は死である」パスカル
「俺はここで何をしているのだろう」ランボー
流浪の人生に意味を見出そうとする言葉が目立つ。
チャトウィンはこの本を執筆中にエイズを発病しており、死の覚悟を持って書いた遺作だそうだ。文字通り、魂の放浪の記録といっていい大作である。放浪してきた気分になる。
このたび、教員をしている多摩大学経営大学院の研究所で"ソーシャル・リーダーシップ"プログラムを企画いたしました。ソーシャルリーダーシップとは、21世紀的人材に求められるのは、ピラミッド組織における強権リーダーシップではなく、ネットワーク型のフラット組織で、人望を集めるコミュニティリーダー的な人材であるという考え方です。
野中郁次郎 一橋大学名誉教授や、グーグル日本法人名誉会長の村上憲郎氏など、多くの著名人をお招きして、著書を深く学んでいこうというのが読書会の企画趣旨です。ここでは私はナビゲーターをつとめます。
「MBB:思いのマネジメント」ほかマネジメント論、人事制度論の専門家である 徳岡 晃一郎氏(多摩大学教授、IKLS代表)、一條 和生教授(一橋大学)らのスキルプログラムは、読書会よりもさらに一歩踏み込んでソーシャル・リーダーシップを体感するものです。
ご関心のあるビジネスパースンの皆様の積極的なご参加をお待ちしております。
お申し込みやお問い合わせは下記URLまで。
http://www.ikls.org/archives/217
1.ソーシャル・リーダーシップクラブの狙い
IKLSでは、知識経営の時代に必要とされる新たなリーダーシップの概念を「ソーシャル・リーダーシップ」と提起しています。ソーシャル・リーダーシップクラブは、それを目指し、実践し、深めていくコミュニティ、実践的学習の場として設立いたします。
2.活動概要
・内容:
特別ゲストを招待してのフォーラムや、書評ブログで知られる橋本客員教授をナビゲーターとし、直接著者をお呼びしての読書会、また一日研修のソーシャルリーダーシップトレーニングなど様々な切り口で実践的学習の場を提供してまいります。
・対象者:
ソーシャル・リーダーシップに興味のある方
マネジメント層、次世代リーダー層
3.クラブファシリテーター
多摩大学 知識リーダーシップ研究所メンバー
多摩大学大学院 教授 徳岡 晃一郎
多摩大学大学院 客員教授 橋本 大也
4. カリキュラム詳細
【ソーシャル・リーダーシップフォーラム】
■ドラッカーから学ぶソーシャル・リーダーシップ
~ソーシャル・リーダーとManagement by belief~
特別講師 野中郁次郎 一橋大学名誉教授ファシリテーター 徳岡晃一郎 研究所教授
参考図書「経営者の条件」ダイヤモンド社
「MBB:思いのマネジメント」東洋経済新報社
・開催日時 9月28日 18:30~20:00
・費 用 3,000円
・会 場 都内(品川を予定)
【ソーシャル・リーダーシップコミュニティ】
書評アルファブロガー、橋本大也(研究所客員教授)のナビゲートで話題の本、話題のテーマについて、
直接著者をお招きしながら対話形式の読書会を実施します。
ソーシャル・リーダーに興味をお持ちの皆さまが場を共有し、
成長できる実践的学習の場造りを目指します。
・費 用 1回3,000円
・会 場 都内(品川を予定)
第一回:開催日時10月28日 18:30~20:00
特別講師 安永雄彦様
指定図書「日本型プロフェッショナルの条件」グロービス経営大学院大学教授、エグゼクティブ・サーチ会社の代表を務めると同時に、
浄土真宗の僧侶でもあるという著者と共に、
日本型のプロフェッショナルのあり方について考えていきましょう
第二回:開催日時11月22日 18:30~20:00
特別講師 三谷宏治様
指定図書 「正しく決める力」
外資系コンサルティングファームでトップコンサルタントとして活躍後、
2006年からは子供の教育に特化して活動。
そんな著者と共に、この時代に必要な考える力、決める力について考えて生きましょう
第三回:開催日時12月15日 18:30~20:00
特別講師 村上憲郎様
指定図書「村上式シンプル仕事術-厳しい時代を生き抜く14の原理原則」
グーグルジャパン名誉会長。グーグル副社長、兼グーグルジャパンの代表取締役を
2009年まで務めた著者と共に、この時代のリーダーに必要なものとは何かについて考えていきましょう
【ソーシャル・リーダーシップ・スキルプログラム】
■目的・狙い
1日研修でソーシャル・リーダーシップの能力開発スキルを学び、今後継続的に自分自身の能力開発が行えるようになることを狙いとします。ソーシャル・リーダーにとって重要な「思い(belief)」をどう育んでいくかを知るとともに、その開発方法を学びます。
■対象者のイメージ
・現役マネジャー
・次世代リーダー候補
■講師
・一條 和生(一橋大学教授 並びにIMD客員教授)
・徳岡 晃一郎(多摩大学大学院 研究所教授)
*開催日程により担当講師が上記2名の中で変更になります
■日程・会場等
・日程:2010年12月~1月頃
・会場:都内中心部を予定
■価格
・1名 120,000円(税込)
申込はメールアドレスkataoka@ikls.orgに件名を「ソーシャル・リーダーシップクラブ申込」と
記載して送っていただくと、後ほど申込用紙を返信します。
お申し込みはこちら
http://www.ikls.org/archives/217
・科学トイ「3Dイリュージョンスコープ シルバー(スパイダーフィギュア付)」3D illusion maker - Spider
なにかと話題の3Dですが、これは鏡を使ってお手軽に3D映像を作り出す科学実験キット。小学1年生の息子は大喜びしていましたが、大人も実は、あれ?こんなに簡単なしくみで立体的に見えるものなの?と驚きもありました。
アダムスキー型UFOを模した2枚の円盤の内側に、小物(赤いボールとクモのおもちゃが付属している)を入れて閉じると、上部の穴の上に物体が浮き出て見えるというもの。ホログラフィー映像と似ているのですが、非常にくっきりと見えるのでびっくりです。
中で反射した光が穴の上で像を結び、物体が浮かび上がって見えまるという原理だそうです。映画の3Dよりも立体感があります。
生きているカエルとか毛虫とか入れたら、動く3Dになるわけですね。気持ち悪いのでやりませんが。
この原理で巨大な円盤を作れば、中に入った人間が立体化するなんてこともできるわけでしょうか。
・Eye-Fi Explore X2 8GB EFJ-EX-8G
Eye-Fiは無線LAN機能がついて撮影した写真をFlickrやPicasaなどWebの写真アルバムサービスへ自動アップロードするSDカード。カメラが趣味の私は、大量の写真をどう管理するかが長年の課題だったのだが、Eye-Fiのおかげで一気に問題が解決した。便利で手放せないツールである。
新バージョンが出たので5月の発売日に買い替えた。3か月ほど使ってみた感想。
まず旧バージョンとの違いだが、
・ジオタグ機能
撮影場所の位置情報が自動で付与される
・エンドレスモード
メモリがいっぱいになるとネットにアップした古い画像から自動で削除する
・公衆無線LAN対応
あらかじめ設定しておけば公衆無線LANを使うことができる
そして私は前モデルの2G→8Gと容量を増やした。
使ってみて結論としては、位置情報と容量アップが、バージョンアップのポイントだった。もともと2Gは少なかったし、ジオタグは整理タグの入力を不要にしてくれるので、タグを打つのが面倒なものぐさの私にはかなり便利なのだ。
撮影後に自宅に帰ると、ネット上に写真がアップされた状態になっている。写真の処理の面倒を考えずに、すぐにブログの本文を書き始めることができる。写真を使って物を書く人の生産性を確実に高めるツールだ。絶賛。
・Eye-Fi Share SD型ワイヤレスメモリカード 日本版
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/04/eyefi-share-sd.html
前モデルの話。
ちょっとブラックだけどネタとして楽しめる漫画だった。デフォルメされた世代論がとてもわかりやすい。
バブル長男(バブル期1986年~1993年卒業組)
世界中のブランド品が似合うのはこの私!
氷河期次男(就職氷河期1994年~2004年卒業組)
ニートだけどな、俺には自慢の嫁がいる(二次元に)!
ゆとり三男(大量採用期2006年~卒業組)
いうこときくから 逆らわないから 内定ちょうだーい!
ニッポンの縮図としての3兄弟の悪戦苦闘の日々を描く。リーマンショック・派遣切り・草食肉食論争など彼らの世代の受け止め方の違いがネタである。パロディ漫画だが、この20年で日本が失ってきたものが世代別でわかる内容。
書籍化特設サイト
http://off.hornet08.net/tokusetu/index.html
最近、献本でいただいたこの本も似たような世代論だった。
「20~30代のビジネスマンをいま悩ませているのが、40代前半の世代「バブルさん」だ。バブル時代のおいしいところを味わってきた彼らの、軽さ、薄さ、いい加減さは驚異的!はったりだけは超一流、会社の祭りに異常にはしゃぐ、カラオケがムダにうまい...。実際に被害を受けた若手社員が明かすエピソードをもとに、バブルさんの生態を解説。目の上のタンコブ、バブルさんの対処法も教えます! 」
バブルさん=バブル景気の1986~91年に、大学生もしくは、入社3年目までの時期を過ごした人。私もぎりぎりひっかかってしまう歳なのですが(笑)、どこまでも他人事として、あーいるよなーこういう人、と共感して読みました。
どちらの本も、自分以外の世代への妬みや見下しの感情があります。時代の流れが早くて世代間で価値観を共有できないのが現代の日本である、と。だからこうやって漫画や世代論のネタとして笑い飛ばすことで、世代間で互いがどういうイメージを持っているかを共有して、相互理解につながる、なんてことはあるかもしれないですね。
「飲食店を取り上げるマスコミに、ジャーナリズム精神は皆無」
超辛口のグルメ業界批判本。メッタギリしていて著者が訴えられないか心配。
だが、グルメ記事の読み方がよくわかる。とても勉強になった。
・店主が毎朝ネタを仕入れに築地に行く鮨屋
・一人でも多くの人に自分の料理を、といって支店を出すオーナーシェフ
・ワインを出す鮨屋、・ビールを置かないフレンチやイタリアン
・丸ビルや六本木ヒルズやミッドタウン等再開発ビルの店
・大間の鮪を出すというそこらへんの店
にはろくな店がないぞという。なぜダメなのか、素人にはなかなかわからない業界事情の説明がある。「飲食店業界にはびこる悪しき慣習や癒着、そして偽りに対してメスを入れていく」激辛モード。
著者いわく、まっとうな評論は儲からない。ヨイショライターを徹底的に叩いている。
著者が特に許せないとするのが料理評論家やジャーナリストと名乗る人たちの店との癒着。「もっと許せないのは、自分が関与した店を自分が連載頁を持っている週刊誌や月刊誌で意識的に何回も取り上げて絶賛することです。これは一般読者への背信行為以外の何物でもありません。雑誌の原稿料や本の印税だけでは足りないと、金儲けのためにコンサルタント業やプロデュース業へ奔るようですが、それなら評論家やジャーナリストの看板を下ろしてからにしろと私は言いたい」と手厳しい。
有名評論家たちの「お食事会」「プロデュース」「特別待遇」といった慣れ合い慣行がいかに評価をねじまげているか暴露する。
そして、著者いわく、評論家だけでなく、まっとうな飲食店も大儲けできない。拡大志向やメディア志向の飲食店は劣化するのみとして徹底的にやり玉にあげている。出版業界や放送業界とのもたれ合いも糾弾する。
著者のストイックなまでの評論家としての誠実さ追求姿勢は素晴らしい。だが、ミシュランブームにせよ、B級グルメブームにせよ、一般人が外食に興味を持つきっかけは、プロデューサが飲食店と仕組んでつくりだすものが多い気もする。すべてを欺瞞だといって封じてしまうと、業界全体がシュリンクしてしまうのではなかろうか、とも思う。もちろん著者のように本物を厳然と判別する人は絶対必要であると思うが...。
放送作家や業界人が絶賛して集まるのは、ただ高級食材を濃い味付けで出すだけの店ばかり、というのは、私も行ってみてがっかりしたことが何度かあるので、納得だなあ。
・ラーメン屋の行列を横目にまぼろしの味を求めて歩く
http://www.ringolab.com/note/daiya/2010/05/post-1218.html
・世にも微妙なグルメの本
http://www.ringolab.com/note/daiya/2006/07/post-416.html
大ぐるめ―おとなの週末全力投球!悪魔のような激旨101店128品
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/05/101128.html
最新の芥川賞受賞作。
こんなに娯楽性たっぷりの芥川賞って珍しい。面白い。
京都にある外国語大学のドイツ語の授業。バッハマン教授はバラを口にくわえ人形を抱いて通勤するエキセントリックなドイツ人。教材が『アンネの日記』なので受講する学生は純真な乙女ばかり。
乙女たちはスピーチコンテストに向けて、『アンネの日記』の「1944年4月9日、日曜日の夜」をドイツ語で暗唱するという難しい課題に必死に取り組んでいる。教授は「乙女の皆さん、血を吐いてください」と努力と根性で死ぬ気で頑張れと檄を飛ばす。
乙女たちは「すみれ組」「黒ばら組」の2大派閥に分かれている。主人公のみか子はすみれ組だが、黒ばら組リーダーの麗子様(スピーチの女王で、「おほほほほ」と高笑いする)に密かに憧れている。
女の園は噂の園であり、囁きや密告が人間関係に危機的な影響を及ぼす微妙な緊張関係にあったのだが、コンテストを前に乙女たちの平和を脅かす、ある「黒い噂」が広まっていく。
表面的にはコミカルな表現の連続でテンポよく展開するので娯楽性が高い小説だ。同時に、ユダヤ人アンネ・フランクが生きた疑心暗鬼の隠れ家生活と、現代の乙女たちの閉鎖社会の心理が、ひねった形で重ねられており、悲劇と喜劇が同居する、実に独特な、わけのわからない深さが魅力である。
『情報楽園会社 TSUTAYAの創業とディレクTVの起業』(徳間書店刊・1996年)に加筆して復刊。カルチュア・コンビニエンス・クラブ社長の増田宗昭氏が語るCCC成功の原点。14年前の本であるが、現代のネットビジネス文脈でも活かせる知恵が書かれている。
前半のTSUTAYA創業の回想録では、増田社長がドキドキしながら、一店舗目を開業した思い出を語る。当時の小さな店舗の写真や、手書きの企画書が、千里の道も一歩からだったのだなあと思わせる。
当時、自分が何を考えていたかが語られる。増田流はとにかくわかりやすい。たとえばコア事業のレンタルビジネスの説明。
「レンタル業とは、一言でいってしまえば金融業である。八百円で仕入れたCDが、レンタル料金百五十円を生む。このレンタル料金百五十円の実態は、金利に他ならない。なぜならお客さんに貸し出されたCDそのものは、翌日に返却され、また次の人に貸し出されて、店の手元に一日分の利子としての百五十円が残る仕組みだからである。お客さんが払う百五十円は、利率になおすと二十%弱になる。しかもこれは一日である。銀行はおよそ年間四パーセントの金利だから、レンタル業のコストと収入の関係は一日で銀行の五倍、年間にして銀行の千八百倍くらいになる。」
だから、CCCは急成長したのか、と納得。そしてビジネスモデルもさることながら、増田社長の企画力重視の姿勢が印象的だ。マルチメディア時代に生き残れるのは、もはや企画会社だけであるとして、その組織の条件を3つ挙げている。
1 情報の共有化
2 個人のプログラムの強化
3 インセンティブシステムの導入
優秀な企画は個人の発想からしか生まれない、と断言する。もちろん自身がその筆頭なのだろう。組織よりも個人を重視して、社員一人一人を独立した経営者としてみなし、それをサポートするのが会社なのだという。
復刊にあたって、「2010年、新しい「楽園」づくり」という章が追加されている。おもにディレクTVの失敗で学んだことの総括である。天才経営者は一度の失敗から、より多くを学ぶのだなあ。
CCC、TSUTAYAに興味がある人は読むとよさそう。
「上質さと手軽さ、どちらも秀逸ではない商品やサービスは、「不毛地帯」に追いやられかねない。消費者にどっちつかずの経験しか提供できないのだ。不毛地帯には冷めた空気が充満している。そこそこの質の商品やサービスは誰の心をも揺り動かさず、何となく手に入りやすいというにすぎない。<中略>商品やサービスは、テクノロジーの発展に見合った改善がなされないかぎり、広がりゆく不毛地帯に呑み込まれる運命にあるだろう。」
グローバル化と情報化の進展によってプロダクトのライフサイクルはかつてよりも短くなっている。ヒット商品もほうっておくとすぐに不毛地帯に追いやられて、売れなくなる。クロックスのシューズ、スターバックスのコーヒー、COACHのバッグなどが、大成功して大失敗した事例として挙げられている。こうしたブランドが陳腐化したのと同じように、iPhoneも放っておけば危うい、とも。
上質さか手軽さか。ポジショニングの戦略で重要なのは、どちらかを潔く捨てることだというのが著者の結論である。上質でかつ手軽という、いいとこどりもまた失敗の原因になるというのだ。たとえばCOACHやティファニーが一時目指した上質で手軽なブランドをこう批判する。
「上質か手軽かの二者択一というコンセプトが示すように、「マス・ラグジュアリー」は砂上の楼閣にすぎない。マスとは手軽であり、ラグジュアリーとは上質である。この二つは共存できない。ラグジュアリーを謳ってはいても、誰もが手にできるならそれはありきたりな商品である。「マス・ラグジュアリー」とはじつのところ、一般の人々の期待水準を押し上げ、身の回りの商品やサービスの質的向上をもたらすものだ。こうなると、その成り立ちからしてもはやラグジュアリーの名には値しない。」
トレードオフを見切ること、陳腐化に対して次の手を打つこと、上質さとは経験、オーラ、個性の足し算で決まること。現代のグローバル市場でサバイブするための、ポジショニング戦略が簡潔にまとめられている。
本書にでてくる多数の米国のケースが参考になった。日本ではあまり知られていないブランド、商品が多数出てくるのだ。たとえば革新的な本屋のタッタードカバー、クレイマーブックス、ザ・ブックストール。1億台近く売れたという携帯Motorola RAZR。ラスベガスのホテル王スティーブ・ウィンなど。ちなみに著者によると、日本ではまだ先端的製品と思われているアマゾンの電子書籍デバイスのキンドルは終わっているらしい。何度もダメだししている。
・版元ドットコム大全〈2010〉―出版社営業ノウハウと版元ドットコム活用術
先日出版した「電子書籍と出版」でお世話になったのが、版元ドットコムの沢辺さんでした。出版社連合体としては第3番目の規模の勢力だそうです。
・版元ドットコム
http://www.hanmoto.com/
版元ドットコムは、163社の版元による、サイトでの本の販売、書誌情報提供や流通改善を追求する団体である。
中小の出版社の連合体が
(1)書誌情報を版元自身がつくって、読者に、出版業界に広く公開する
(2)書誌情報をできるだけ詳細なものにする
(3)出版事業にかんする情報の交換、ノウハウの共同した獲得
という目的を掲げて協力している。
この小冊子はその活動成果、ノウハウの紹介と入会案内である。基本的には一般読者ではなくて出版社向けの内容。
版元ドットコムのデータベースは、書誌の登録点数は33000点と多くはないが、内容はAmazonのデータよりも詳しい本もある。
たとえば先日共著者として出版した「電子書籍と出版 デジタル/ネットワーク化するメディア 」では、
・Amazon:電子書籍と出版 デジタル/ネットワーク化するメディア
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4780801494/daiya0b-22/
・版元ドットコム:電子書籍と出版 デジタル/ネットワーク化するメディア
http://www.hanmoto.com/bd/isbn978-4-7808-0149-1.html
版元ドットコムのほうがかなり詳細であることがわかる。
読み物として、出版業界の専門用語を、版元ドットコムの会員有志で解説した「出版業界辞典」が、業界人にとって大切なポイントをおさえて書かれており、前から知りたかったことがよくわかった。
出版社は国内に4000社くらいあるといわれるが、大半は中小零細規模である。大手出版社に対して、ネットで連合体を作って何ができるか、この団体の可能性に注目している。