宗教とは何か
日本におけるこの本の位置づけはリチャード・ドーキンス『神は妄想である』に対する反論本である。
宗教の現代的な価値を擁護する内容。日本人にはない問題意識のため、この神学論争は国内の論者ではほとんど見かけない。利己的な遺伝子やミームの提唱者として日本でもよく知られるドーキンスだが、今は宗教批判の先鋒に立っているのだ。宗教は迷妄であり愚かだとしてめった切りである。それに対して著者は、科学もまたある種の信仰だと切り返している。
「重要な意味において、科学者は信仰者であると同時に美学者でもあるとわたしは考える。あらゆるコミュニケーションは信頼[=信仰]をふくんでいる。」
信念はあらゆる知の土台になるという論を展開している。アリストテレスやカントや野中郁次郎の、「知識」は信念であるという言葉と同じだ。
「そもそも信仰は───どのような種類であれ───選択の問題ではない。なにかを信じるにあたって人は意識してそう決めるのではなく、知らないあいだに信じているというのが一般的だろう。あるいは、かりに意識して決めるにしても、すでにその方向にかたむいていたからともいえる。」
科学合理主義か宗教かの選択というよりは、著者はあらゆる思想の問題に普遍化していく。信じる心を人間は生得的に持って生まれており、信仰は理性を超える、人間の内面の深さを示すものだという。
「理性だけが野蛮な非合理主義を屈服させることができるのだが、そうするためにも、理性は、理性そのものより深い部分に横たわる信仰の力や資源に頼らなければならない。」
高度にレトリックを使った議論が続くため、読むのがだんだんしんどくなるが、キリスト教世界の合理主義者が、内面においてどのように科学と宗教を調和させるべきかのビジョンが示されている。
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