エレンディラ
ノーベル賞作家ガルシア・マルケスが書いた"大人のための残酷な童話"6つの短編と表題作の中編を収録。
「大きな翼のある、ひどく年取った男」
「失われた時の海」
「この世でいちばん美しい水死人」
「愛の彼方の変わることなき死」
「幽霊船の最後の航海」
「奇跡の行商人、善人のブラカマン」
「無垢なエレンディラと無情な祖母の信じがたい悲惨の物語」
やなぎみわのアート写真がきっかけで、原作を読んでみようと思ったのだけれども、写真家の創作意欲をかき立てた理由がわかった気がした。エレンディラだけでなく、他の6つの作品もイメージ喚起力が衝撃的だった。
特に「大きな翼のある、ひどく年取った男」が強烈。下界に落ちてきた天使が村人たちに監禁虐待されてボロボロにされる悲惨な話。大江健三郎の「飼育」を思いだした。あちらは第二次世界大戦中に日本の山中に米軍の飛行機が墜落して、黒人兵が捕まって、村人たちに"飼育"されてしまう話だった。異質→恐怖→排除。いつでも一番怖いのは無知な人間なのだ。
「この世でいちばん美しい水死人」は、浜辺に流れ着いたハンサムで肉体美の男の水死体があまりに美しかったので村の女も男も群がって弔うという話。「奇跡の行商人、善人のブラカマン」はどんな毒にでも効くという解毒剤を売るイカサマ師の話。死と笑い。ラテン系らしいメメントモリなメッセージがすべての作品に織り込まれている。
短編集だが幻想的、神話的、宗教的なマルケスの魅力がよくでている。
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