パリ、娼婦の館
19世紀のパリに栄えた娼婦の館の研究書。フランスの小説に登場する記述や、20世紀初頭にパリを訪れた日本人の証言、写真資料から、当時「メゾン・クローズ」と呼ばれた娼家の実態を調べている。ひたすら妖しく淫靡な世界が再現される。
娼婦たちはなぜ身を売るようになったのか。日常生活はどのようなものだったのか。女将や女衒はそもそも何者か。娼家の経営の実態。風俗情報の流通。管理売春の制度。高級店と格安店のちがい。衛生管理の状況。100年前のパリの娼家のあらゆる側面が語られている。
「衣食足りて変態を知る」であり、高級店ほどマニアックなサービスを提供していた。超高級店はSM、イメクラ、○マルフェチと、なんでもありのバリエーション。具体的な内容の説明が凄い。たとえばニワトリの羽だらけになって女の子たちに追い回されるプレイなんていうニッチな要望にもこたえていたという。
「高級なメゾン・クローズに通ってくる金満家の客の中には、直接の接触を好まず、ひたすら「見る快楽」のみを追求したがる客、いわゆる「覗き魔(ヴォワユール)も少なくなかった。こうした覗き魔のために、店ではいろいろと工夫を凝らしたアトラクションを用意していたが、その中で最も一般的だったのは、ストリップの原初的形態である活人画(タブロー・ヴィネヴァン)だった。 すなわち、何人かの娼婦が全裸ないしは半裸で絵画の中のオダリスクを演じるのだが、客がまるで絵画を至近距離から眺めるように、目を近づけて(あるいはムシ眼鏡を使って)この活人画を「鑑賞」するところに面白さがある。」
こうした密室でのサービス内容の記述から、19世紀パリの夜の文化の爛熟ぶりが伝わってくる。ヨーロッパ的な官能の原風景がここにある気がする。奇書の類といっていいけれども、フランス古典文学を読むときの参考にもなる本だ。
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