合葬
江戸文化の漫画家 杉浦日向子の作品。庶民風俗、町人文化をとりあげた作品が多い中で、これは異色のシリアス路線である。よみごたえがある。
最後の将軍 徳川慶喜の警護を目的として結成され、新政府軍と上野戦争を戦って壊滅した彰義隊。官軍とも賊軍ともつかない曖昧な存在。隊士たちは何のために命をかけて戦うのか。明確な大義をみつけられず迷いを抱えたまま、それぞれの思いを胸に決戦へと突入する。
彰義隊は自らの意思によるボランタリな組織だった。この漫画の3人の少年たちも、どう生きるか迷った末に、戦いに加わることを自ら選ぶ。その心理プロセスがとてもリアルである。杉浦日向子が得意とする江戸の平穏な日常描写があって、少年たちのおかれた鬱屈が伝わってくる。戦いという非日常にどうしてつながっていったのか、よくわかる気がする。
維新期の江戸の混沌と緊張のムードもうまく描写されている。市民革命と言うわけでもないから、戦うのは一部の志士たちのみである。多くの人には関係ないのである。市中では普通に日常生活が営まれている。決戦の日は、上野で飛び交う砲弾の音を、福沢諭吉が三田の慶応義塾で授業をしながら聞いていたという。
時代の流れについていけなかった旧勢力の残党の話といってしまえばそれまでだが、命を賭けた人たちにはそれぞれに熱いドラマがあった。新政府軍は上野戦争で勝利を収めた後、彰義隊の遺体の回収を禁じたらしい。この漫画は消えゆく江戸への著者のレクイエムであり、散って行った志士達を弔う合葬なのだ。
トラックバック(0)
このブログ記事を参照しているブログ一覧: 合葬
このブログ記事に対するトラックバックURL: http://www.ringolab.com/mt/mt-tb.cgi/2908