隔離小屋
表紙の絵のごとく凄まじい小説。
「ここはかつてアメリカだった。渡し場があるのは横断に十カ月はかかる陸地、海から海まで広がる土地。それはかつて、地上で最も安全な場所だった。」
荒廃して死の地となったアメリカ。人々は海の向こうに脱出するために、ひたすら東の船着き場を目指して歩いていた。『怒りの葡萄』(ジョン・スタインベック)の未来SF版のような世界観だ。飢餓と暴力が蔓延して、生存さえ危い世界で、忌み嫌われる伝染病にかかったマーガレットは隔離小屋にひとり置き去りにされている。苦しい旅の途中で小屋に偶然立ち寄り、彼女と出会った若者フランクリン。数奇な運命の糸によって結びつけられて、2人は終末の世を生き抜いていく。
無政府状態と厳しい自然環境。あらゆるコミュニティが破壊されていく。盗賊につかまって奴隷として売り飛ばされるものもいる。脱出のための船はどこに着くのか。人々はいまや「アメリカから自由になる望み」を抱いて旅をしている。
荒れ果てたアメリカを彷徨うという点では、同時期に書かれたコーマック・マッカーシーの『ロード』を彷彿させる。『ロード』も『隔離小屋』も絶望的な状況ばかり描くが、『隔離小屋』のほうが、遠くに温かい光明が見えている気がする。ロードの親子2人はやがて死んでしまいそうだが、隔離小屋の男女2人はなんとか生き延びそうな気がするのだ。パンドラの箱をあけて底に希望があるかないか。これは読後感に大きな違いが生じる。
衝撃的なのがロードで、劇的なのが隔離小屋。
・ロード
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/09/post-831.html
・ブラッド・メリディアン
http://www.ringolab.com/note/daiya/2010/02/post-1165.html同じくコーマック・マッカーシー。アメリカの開拓時代の荒野も似ている。
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