社会とは何か―システムからプロセスへ
いま改めて「社会」とは何かを考える。
「社会の語が歴史のなかでどのようにして作られ、どのような課題に応えるものとして練り上げられてきたのか。その過程をたどりながら、社会の概念を鍛えなおすことが、本書のねらいであり、執筆の動機である。」
まずこの本は、戦争と革命の17世紀をこえて今につながる「社会」の概念を発明したホッブズ、スピノザ、ルソーらの古典的な社会の概念とはどんなものであったかを振り返る。社会契約論、一般意思と全体意思、ゲゼルシャフトとゲマインシャフト、死の権力と生の権力など初期の社会思想家たちの代表的な議論の変遷が説明されている。社会について基礎知識をおさらいした後で、社会科学と社会主義が語られる。前半は大学の社会学の授業みたいだ。わかりやすい。
そして、メインテーマは多様性の時代の社会論である。多様な文化、価値観を内包する社会では、これまで社会を存立させてきた約束事が成り立たなくなる。ルソーは全成員の意思の一致が可能としたが、現代では明白に不可能である。著者は、異質のせめぎあいによって進化していくプロセス、"複数性の社会"を見ていくべきだという。
「もし社会が、その内部に齟齬をかかえない等質的なシステムであったとすれば、それはやがて硬直化した制度と化し、内的なエネルギーを失っていくであろう。むしろ社会は多様性からなるプロセスなのであり、そこに生まれる軋轢や葛藤を共同で、あるいは個人的に解決しようと努力するからこそ、社会は尽きることのない活力を得ているのではないか。」
近年の"コミュニティ"という言葉の意味内容が拡散しすぎていて問題だと指摘している個所があった。なんでもかんでも"コミュニティ"のおかげにする風潮は、インターネットをめぐるネット上の言説でもしばしばそうである。社会、コミュニティ、共同体、公共圏などの一般化した言葉の本来の意味を再認識させられる有意義な本だった。
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