神様のカルテ
第10回小学館文庫小説賞、2010年本屋大賞2位受賞。
信州の小さな病院で働く若い内科医 栗原一止は、医者不足の地方医療の現場で、慌ただしい毎日を送っている。患者の数が多すぎて、ゆっくりと考える暇がない。徹夜勤務の連続で1年前に結婚した可愛い妻とも、なかなか会うことができない。医局へ進んだ仲間たちと違って、出世の道が開かれているわけでもない。それなりに充実を感じてはいるけれども、自分の選択は本当に正しかったのだろうか、確信は持てない。そんな栗原医師のもとに、上司のはからいで、大学病院で最先端医療を学ぶ道への誘いがくる。
軽やかさの中に、重たいメッセージを入れ込んでいる。
心を打つのは、昔ながらの「医は仁術なり」っていうメッセージだけれども、それを真正面から直球で投げても、現代の読者には重たすぎて受け入れられない。夏目漱石マニアの古風な文体で喋るユーモラスな主人公に代弁させるという設定が成功している。
漱石の『坊っちゃん』のように特徴のある登場人物ばかりがでてくる。主人公が心の中で彼らに勝手にあだ名をつけるのも同じだ。現代のテレビドラマのごとく、わかりやすいキャラクター小説である。案の定、櫻井翔×宮崎あおいで2011年に映画化が発表された。
最近の小説で言えば『昨日の神様』のようなテーマを、『夜は短し歩けよ乙女』のようなタッチで書いたとても今っぽい作風。この二作品が好きな人に特におすすめ。
・夜は短し歩けよ乙女 森見 登美彦
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/03/post-956.html
・昨日の神様 西川美和
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/12/post-1133.html
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