「分かち合い」の経済学
競争原理ではなく協力原理こそ、現在の経済危機を乗り越える思想であるとする、新自由主義批判と再生ビジョンの提示。民主党に強い影響力を持つといわれる経済学者 神野直彦教授著。
「これまでの大量生産・大量消費に代わって知識社会では、知識によって「質」を追求する産業、より人間的な生活を送るために必要なものを知識の集約によって生み出していく産業、すなわち知識産業が求められる。それと同時に、人間が機械に働きかける工業よりも、サービス産業という人間が人間に働きかける産業も主軸を占めるようになる。」
農業社会から工業社会を経て知識社会の時代が来る。知識社会の創造の原理には「奪い合い」よりも「分かち合い」が有効であるという主張がある。創造的な場は、競争だけではつくれない。知識は共有することで深まる。日本は国際比較でみると、対人信頼感がかなり低い社会であり、情報や知識の流通がうまくいっていない。
「知識に所有者を設定して、市場で取引しても、知識による知識産業は効率化しない。真理を探究する知識人にとって、真理を探究することそれ自体が喜びであり、インセンティブとなる。知識は他者と共有し合うオープンな集合財と考えるほうがよい。知識へ支払われる報酬を目的として他者を蹴落とすような虚層が繰り広げられるような社会では、知識産業は活性化していくことはない。」
グーグルとかIDEOとかザッポスとか、知識を成長の源泉にしている会社の組織風土は、知識の共有と協力関係をベースにしている。そのうえで切磋琢磨の競争が遊ばれる。市場にまかせると経済は最適化されるが、人間関係は最適化できないということなのだろう。
「「市場の神話」では人間が他者と接触するのは、他者が自己の利益になる時だけであると信じ込ませようとする。市場における契約関係とは、まさに他者が自己の利益になると、双方が思った時に成立する。ところが、他者の利益は自己の利益であると人間が考えるようになると、「市場の神話」は成立しなくなってしまう。他者の利益が自己の利益だという原理は協力原理と言う「分かち合い」を支える論理である。協力原理は「仲間」の形成によって成立する。つまり、「私」の利益ではなく、「われわれ」の利益を求めるようになるからである。」
インターネットのことは触れられていないのだけれども、読めば読むほど、これはネット時代の知識創造原理であると思う。
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