千年樹
この本は今年のベスト10に確実に入るなあ。面白い。傑作。
関東地方の山地にある樹齢千年のくすのきの巨樹。
1000年の間に巨樹の下で繰り広げられた人間たちの短い生のドラマを8つの連作短編で語る。時代も立場もまったく異なる登場人物たち数十人がいる。山に逃げた武士、自殺を考える中学生、女をさらった山賊、ドライブ中の家族、愛人と待ち合わせた娼妓...。よくここまで多様な設定下の登場人物たちを描き分けられるものだなあと著者の筆力に感嘆する。
器用なだけでなくて、8つの話がからみ合って群像劇としての深みがでているのも素晴らしい。
8編とも現代の登場人物と過去の人物の生き様が呼応する形で話が進む。死を考えて巨樹の下を訪れる動機は、昔と今では背景は異なる。一方では戦に負けて死ぬものがあり、もう一方ではいじめに耐えかねて自殺しようとしているものがいる。いろいろな生き方があるが、ひたむきに生きる人間の悲しみ、苦しみ、切なさが、時代を超えて共通するものとして浮かび上がってくる。
この連作短編は1000年に渡る長いスパンだが、巨樹を中心にした狭い地域の話なので、登場人物や設定が各話ですこしずつ重なっていて、ああ、あの話はこうつながったか、あの人はその後こういう人生を歩んでいたのか、とパズルを解くみたいな面白さもある。
先日倒れてしまった鎌倉八幡宮の大銀杏は、実朝暗殺の舞台ともなったと言われ、樹齢千年と言われるが、まさにこういう歴史を見てきた樹木だろう。この著者にぜひ鎌倉の大銀杏編も書いて欲しいなあ。
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