千羽鶴
日本的な情緒溢れる背徳小説。川端康成。
(筋がネタバレしますが)
主人公は今は亡き父親の愛人と深い仲になるが、その女が苦悩して自殺してしまう。そのなりゆきで今度はその娘と交際するが、うまくいかない。父親にはもうひとり愛人がいて、そのすすめで引き合わされた清純な女性と出会い結婚するが、主人公にはやはり心にひきずるものがあって真の夫婦になりきれない。
|「奥さんには父と僕との区別がついているんですか。」
|「残酷ねえ、いやよ。」
| 目を閉じたままあまい声で、夫人は言った。
| 夫人は別の世界から直ぐには帰ろうとしないようだった。
| 菊治は夫人に言うよりも、むしろ自分の心の底の不安に向かって言ったのだった。
乱れた男女の話だが、濡れ場の直接表現は一か所もなくて、川端は、遠まわしに婉曲に、そのエロスを見事に表現する。行間の淫靡さがこの作品の魅力。
鎌倉が舞台で茶道の家の話なので、茶器の名器がでてくる。「白い釉のなかにほのかな赤が浮き出て、冷たくて温かいように艶な肌に」などというように、名器は主人公が関係した女性の身体を思わせる。茶器の飲み口に残った淡い赤みを、死んだ女の口紅がしみこんだあととみなして「吐きそうな不潔と、よろめくような誘惑とを、同時に感じた」りする主人公。
川端康成は本質的にはフェティシズム官能小説家なのだよなあと再認識する作品。
・みずうみ
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