日本はなぜ貧しい人が多いのか 「意外な事実」の経済学
これは、日本はなぜ貧しい人が多いのか?を語る本ではない。多くの人がとらわれている思い込みを、事実によってそうではないとただす本である。「はじめに」にこの本の要旨は圧縮されている。
「少年犯罪は増加している、若者は刹那的で貯蓄もしなくなってきている、若者の失業は自分探し志向の強い若者の問題である、日教組の強いところは学力が低い、グローバリゼーションが格差を生んでいる、日本は平等な国である、人口が減少したら日本は貧しくなる、昔の人は高齢の親の面倒をきちんと見ていた、高齢化で医療費は増える、中国のシステムが優れているから高成長ができる、中国はすぐに日本に追いつく、円は安すぎる、経常収支黒字を溜め込めば損をする、国際競争力は豊かな日本のために必須のものである、07年まで企業は経営効率化に成功したから利潤を上げていた、90年代の停滞は日本が構造改革しなかったからである、低金利が続いているのは日銀が低金利政策をしているからである、銀行に資本注入をすれば経済は回復する、第2次世界大戦がなければ大恐慌は終わらなかった、国債の減額は何より大事である、日本のエネルギー効率はダントツに高い。」
巷で流布しているのは誤った認識であるとして、事実によってそれを否定していく。大きなテーマは格差、年金、少子高齢化、国際競争力、教育など。具体的な論点は60以上もある。政策提言にまで結び付けた意見も多い。
たとえば格差問題の本質は主に高齢化なのだ。「もともと高齢者は他の年齢層に比べて格差が大きい。高齢化で所得のばらつきが大きい人々が増えれば、社会全体の格差も広がる」という事実があって、高齢化の影響を抜くと格差はあまり広がっていない。給食費を払えない家庭は実際には多くない。
経済環境が好転すれば若年失業率も回復するのであって、若者の資質うんぬんの問題ではないとする教育観は特に共感した。それよりも著者は儲かっていないのに莫大な報酬をもらっていたアメリカの金融機関の経営者らを、ああなってはダメだと批判する。
「ある程度の知識とそれに基づく知を備えた人間が社会全体の生産性を高めるなら、そうした人間は必要である。また、勉強や学校が、このような意味での"有能な人間"を造ることができるなら、勉強や学校は必要だ。しかし、"有能な人間"が社会全体の富を拡大するのではなく、自分たちの取り分を増やしているだけなら、教育は社会にとってはプラスとは言えない。」
世界の一流大学を出て、ロジカルシンキングとプレゼンテーションと教養があっても、それを社会のために使わない人を育ててはだめなのだ。就職率が低下すると即戦力型の人材を育成しようという話になりがちだが、高等教育の就職予備校化は長期的には社会にとって有害でさえあるかもしれない。
そして日本経済をどう立て直すべきか。自動車や電子産業という"ストライカー"産業に対してシュートしやすい絶妙なパスを出すことではないかと提言している。
「ストライカー産業をどう育てただ良いかは、実は分からない。分からないことに予算を使うべきではない。ストライカー産業のコストである投入産業(運輸、通信、電力、金融、工業団地、工業用水などを提供する産業)の効率を高め、そのコストを引き下げてはどうだろうか」
国内コストが下がることで国内企業にとって有利になるが、海外企業にとっては有利に働かないので、望ましい結果になるのではないかというわけ。投入産業コストが劇的に下がれば、ベンチャーにとっても、これまで資本がなければ無理だと諦めていた市場参入が増えるかもしれない。
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