悼む人
第140回直木賞受賞作。
『おくりびと』×『千の風になって』×2くらいの感動。
命の問題をまっすぐに考える傑作。
「わたしは彼に親友のことを話しました。思い出すかぎりのことを伝えました。わたしが話し終えたところで、「いまのお話を胸に、悼ませていただきます」と、彼は先ほどと同じ姿勢で左膝をつき、右手を宙に挙げ、左手を地面すれすれに下ろして、それぞれの場所を流れている風を自分の胸に運ぶようにしてから、目を閉じました。」
新聞の訃報記事や雑誌の事件特集や旅先での会話で聞いた死者の最期の場所を訪ね、その人が生前に誰を愛し、誰に愛され、そして誰から感謝されていたかを調べて歩く男が主人公。彼の目的はこの世にかけがえのない存在として故人がいたことを自分の胸にしっかりと刻むこと。携帯した何冊ものノートには、悼んだ人、これから悼む人のデータがびっしりと書き込まれている。
やがてネットの掲示板ではこの奇妙な「悼む人」の情報が話題になる。「<悼む人>は誰ですか?」。何を狙っているのか、新興宗教みたいなものなのか、それとも、ただの狂人なのか。悼む人の無私無欲な行為は、多くの人々の目には動機が不明で不気味なものに見える。しかし、ときにそれは遺族たちの心の癒しにもなる。
悼む人 坂築静人の生き様と、複雑な思いで彼を遠くから見守る母、記事のネタとして追いかける週刊誌記者、そして悼む人に同行する苦悩の女性。4人の過酷な人生模様を通して、現代における生と死の意味を深く考えさせられる内容。静人の行為はやはり不可解だし、根源的な答えが出るわけではないが、自分なりの考えを読んでいるうちに、嫌でもまとめることになる本である。
学校で道徳の時間に生徒たちにこの作品を読ませて議論させたらいいと思う。教師が一方的に人間の命の重さは地球より重いなんてきれいごと教えても命の尊さなんて伝わらないと思うが、「悼む人」の行動や心理を考えさせれば、十人十色の命の意義を見つけるはずだ。押しつけがましい答えを出さない小説だからこそ、読者にこころの中から湧きあがって残るものが多い、そういう名作だと思う。
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