青い野を歩く
アイルランドを舞台にした短編集。
収録8編のすべてが傑作で一気に読ませる。上質だが退屈させない。外国文学で面白い短編を次々に読みたい人におすすめ。
どの話にもアイルランドの田舎で暮らす平凡な人たちの静かな日常があるのだが、各編の主人公はみな心の闇を抱えている。少女時代に受けた性暴力とか、秘めた危険な関係とか、妻が夫に対して長年溜め込んできた負の感情とか、そういうヤバそうなものが、平穏な生活に破綻を引き起こす。
『青い野を歩く』はかつて密かに特別な関係をもった女性の結婚式を祝福することになった神父の話。招待客に悟られぬように振る舞わなければならないのだけれど、秘密を知っているかのように神父をからかう者がいて動揺する。踊っている彼女の真珠のネックレスの糸が切れて真珠が床にばらまかれる。拾い集めようとするが、それは元には戻れない二人の関係を象徴しているようで...。
緊迫した修羅場、切ない感情、どうしようもない孤独感といった要素が8編にだいたい共通している。帯にある「哀愁とユーモアに満ちた、「アイリッシュ・バラッド」の味わい」という評は実に言いえて妙である。いろいろな悲惨や不幸が語られるが、暗さはあまりなくて、むしろ人間の強さや優しさが印象に残った。
それぞれの話の登場人物(特に主人公)が厚みをもって描かれていて短いのに物足りなさがない。濃いものを読んだなあというしっかりした読後感があって、次の作品へいける。だから通しで読むとかなりお腹いっぱいになることができるお得な一冊だ。
まだ他の邦訳はないみたいだが、とりあえずクレア キーガンという名前を覚えておこうと思った。
私のおすすめは、
1位 『森番の娘』
2位 『青い野を歩く』
3位 『別れの贈りもの』
やっぱり面白い小説は最初の数ページでひきこませるものなんだなあ。
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