代替医療のトリック
現代のタブーに真っ向勝負。
『フェルマーの最終定理』『暗号解読』『ビッグバン宇宙論』を著した現代最高の科学ライター サイモン・シンが、次はどんな定理に挑むかと思ったら、意表をついて「代替医療」を斬る本を出してきた。ドイツの代替医療研究の大学教授と組んでの共著。翻訳はサイモン・シンの名訳を生み続けてきた青木薫氏。
まだ「代替医療」という言葉が一般にわかりにくい気がするのだけれど、要は、鍼、ホメオパシー、カイロプラティック、ハーブ治療などを指す。代替医療のほとんどは科学的にはインチキで治療効果はまったくないという事実を科学的に明らかにした本だ。それらを職業や商売にしている人たち(国内でも何十万人もいるだろう)に死刑宣告をしたようなもので、かなりヤバイ本かもしれない。今後、論争が起きそうだ。
やり玉に挙げられるのは、ホメオパシー、鍼、カイロプラティック、ハーブ療法、アロマセラピー、イヤーキャンドル、オステオパシー、結腸洗浄、指圧、スピリチュアル・ヒーリング、デトックス、伝統中国医学、ヒル療法、マグネットセラピー、マッサージ療法、瞑想、リフレクソロジーなど30種類以上。それぞれに科学的な根拠の有無が明らかにされる。わずかに効果を認められたものもあるが、著者らの結論では、ほとんどが科学的には"アウト"だ。
「人びとが代替医療に心惹かれるきっかけは、多くの代替医療の基礎となっている三つの中心原理であることが多い。代替医療は、「自然」で、「伝統的」で、「全体論的」な医療へのアプローチだといわれる。代替医療を擁護する人たちは、代替医療を選択する大きな理由としてこれら三つの中心原理を繰り返し挙げるが、実は良くできたマーケティング戦略にすぎないことが容易に示される。」
自然、伝統的、全体論的であること自体には何の意味もないのに、そう書いてあると人は騙される。
確かに鍼やカイロや指圧で病気が治る人はいる。治療行為や薬に効果はなくても、心理的な効果=プラセボ効果が伴うからだ。しかしプラセボ効果は科学的な医療にも伴うわけで、代替医療の専売特許ではない。代替医療には科学的な医療と比較して多くの危険性があるし、代替医療に切り替えた結果、通常の医療を受けない患者が出てくる。プラセボ効果のみの代替医療では、多くの患者の病気は悪化していくのみである。だから代替医療の酷い実態を世の中に広く知らしめなければならないという使命感で著者らはこの本を書いている。
なぜ人は信じてしまうのか、なぜ効果があるように見えるのか、なぜ代替医療に注意すべきなのか?。サイモン・シンは本書でも、数学の証明の本のときのように、極めて論理的で明解な説明をしている。現代人の多くが多少は代替医療の情報に騙されている。代替医療にかかるのは個人の自由だが、前提として多くの国民が科学的な根拠の有無を知っておくべきだろう。
というわけで、かなり説得力のある本なのだが、代替医療側から論理的な反論の書が出てきたら面白くなるなあ。
・ビッグバン宇宙論
http://www.ringolab.com/note/daiya/2006/07/post-412.html
・フェルマーの最終定理―ピュタゴラスに始まり、ワイルズが証明するまで
http://www.ringolab.com/note/daiya/2006/01/post-340.html
・暗号解読―ロゼッタストーンから量子暗号まで
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004028.html
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