魚神
「魚の目を覗いてはいけないよ。人間とは心の造りがちがうのだから。」
目は不思議だ。
瞳を見つめていると相手の心の中を覗いている気がする。本当のことを言っているのかどうか、口は欺いても目は嘘をつかないはずと思っている。だからペットの動物の目を見たときにもそこに心を見出そうとする。でも動物は人間と違う。裏切られて悲しくなると同時に、見た目は同じなのに異なるものが背後にあることに、怖さ、不気味さを感じることがある。
捨て子だった白亜とスケキヨは本土から隔離された遊郭の島で育てられた。やがて美貌の姉は遊郭で身を売り、薬学を身に付けた弟は暗闇で不思議な薬を売るようになる。二人は幼い頃から強く惹かれあっていたが、姉は弟の暗い目の奥に自分とは相いれない不気味なものを感じていた。
この小説、読者は独特で幻想的な世界観にまず強く惹かれるだろう。島民の夢を喰らう獏の伝説、巨大な雷魚、遊郭を管理する裏社会の掟、女の体に月一度訪れる「月水」やスケキヨが発するデンキ。時代小説の遊郭モノに異界設定というひねりを加えている。そのひねり具合が絶妙で登場人物は人間とそうでないものの境界線に、濃い闇の目をして存在している。
デビュー作にして小説すばる新人賞と泉鏡花文学賞をダブル受賞した話題作。千早 茜はまだ一冊しか出していないようだが、大物の予感。新刊.netに作家名をキーワード登録しておこう。
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