まっくら、奇妙にしずか
2005年3月、ドイツのハンブルク応用科学大学デザイン=メディア=情報学部の卒業審査で、学生アイナール トゥルコウスキィが提出した作品の出来栄えの見事さに教授たちは目をみはった。たった一本のシャープペンシルで400本の芯を使って3年かかって描き上げたという細密画と、独特のシュールさ漂うストーリー。世に出た作品はたちまちドイツの有名な絵本賞を連続受賞した。
絵本とはいっても対象は大人向け。ある日、町のそとの砂丘の廃屋に、奇妙な男が住みつく。男はわけのわからぬ仕掛けで漁のようなことをしている。没交渉のまま裏で監視を続ける町の住人たちは、わけのわからぬものへの恐れや嫉妬から、よそものの男を排斥するムードに傾き始める...。
ムラ社会の創造性のなさを悲しい目で見ているのは、おそらく作者アイナール トゥルコウスキィ自身の実体験からくる感慨なのだろう。卒業制作といっても当時すでに33歳。誰にも理解されないまま、黙々と細密画を描き続けてきた画家は、雲をつかむような仕事をひとりで続ける主人公の姿そのものだったのじゃないだろうか。
この話からは無理解のムラに対する怒りや批判はあまり感じられない。あるのは外に対しては諦めと悲しさ、内には孤高の創造行為に没頭する充実感。表現に激しさはないが、姿勢はある種のアウトサイダーアートといってもよいのかもしれない。ここ数年で作者は社会的評価を受けて、広く人気も出て、ポピュラーになりつつあるようだが、次はどんな作品を描くのかを見てみたい。
・「百頭女」「慈善週間または七大元素」
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/06/post-771.html
・アウトサイダー・アート
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/04/post-739.html
以下は大人の絵本系
・『終わらない夜』と『真昼の夢』
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/08/post-1049.html
・なおみ
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/12/post-895.html
・大人な絵本 「天才の家系図」「裁判所にて」
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/09/post-812.html
・「平家物語 あらすじで楽しむ源平の戦い」と「繪本 平家物語」
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/09/post-823.html
・ちいさなちいさな王様
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/01/eel.html
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