紙の本が亡びるとき?
書籍の未来と文学の未来に関する論考集。
「紙の書籍が遠くない未来、これまで果たしてきた役割を終える」という前提で、出版業界と文学界に不可避に生じる変化を予測する。タイトルから期待するデジタル化のインパクトについての考察は全体の3分の1くらい。文学のおかれた環境と変化についてが3分の2を占める。
著者は書籍という媒体の特性を3つ挙げる。
1 文字情報の容器としての側面
2 主体が文字情報と接触するインターフェイスとしての側面
3 消費社会における商品としての側面
電子化による変化はすべてに大きな影響を与える。
「電子化されたデータの最大の強みは、それが、物理的・空間的な質量を有しないことである。かつて立会場で目視で取引されていた為替や株式の市場が、電子化されることでいっきに流動性を増したように、情報から質量を奪い去ることは、その効率性を飛躍的に高める。」
著者は1人が1000人の読者から1年に3000円を払ってもらえば12万人の作家を支えられるというモデルを提示している。個人ブログやメールマガジンのマネタイズ成功例(それで独立した、など)も増えているので、私も注目しているパターンだが、この計算年間に1人300万円に過ぎない。主旨は賛同だが、もうちょっと夢のある数字の方がいいんじゃないかという気もした。
文学というカタチは、電子化されることによって、読書スタイルの変化をもたらすだろう。検索とクリックが可能な電子テキストでは、これまでのように長い本をリニアに延々と読まなくなるかもしれない。
大江健三郎は「インターネットで本を読むといっても、それは本を解体することですね。一冊の本をバラバラにしていくだけ。しかしそれで終わるんだったら、人類は進化を続けなかったということです」と文学の新しい様式に懐疑的に語ったそうだが、ハイパーテキストやインタラクティブコンテンツを前提としたアートが大江健三郎的な旧態文学とせめぎあい、長い時間をかけて主流を乗っ取るということなのではないかなあと思う。
この本は、現代文学の文学部的な問題を語った章も多いので、「出版の未来」のみの本ではない。紙の小説が亡びるとき、の方が内容に近い。
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