ビジネス・インサイト―創造の知とは何か
知識創造のダイナミズムとケースリサーチに基づく経営学の有効性を語った新書。暗黙知をビジネスにおいていかに扱うかが大きなテーマ。
「社会の現実は自然界のそれと違って、現在の判断が未来の現実を作っていく」。だから過去を見るだけでは将来の確実な見通しを作ることはできない。ビジネスは常に状況に依存する。法則が再現しないことが多い。実証的な経営には限界がある。しかし、だからといって闇雲に、場当たり的な解決や試行錯誤に頼るのは非合理だ。そこでこの本の言う総合的に情報を勘案して将来を見通す力=ビジネス・インサイトが重要になる。
「そうそう、そういう商品が欲しかったんだ」という需要創造型の商品・サービスは、市場調査の結果からでは作り出すことができない。それまでになかった新しい価値の創造は演繹でも帰納でもないアブダクションからこそ生まれてくる。
「消費者が、どのようなインサイトをもっているのかを、言葉で質問しても答えは返ってこない。無意識の中で行われがちな生活課題設定と課題解決だからだ。そこに、「オブザベーション」という手法の価値がある(西川英彦2007)。消費者を観察し、それを通じて彼の生活を追体験し、彼の課題を自分の課題として理解・共感できることが必要になる。これは、次の章で言うところの「対象である消費者への棲み込み」にほかならない。そうして初めて、その商品に向けてのインサイトが現われてくる。」
ビジネスインサイトを得るには、消費者を観察し、その生活を追体験し、その課題を自分の課題として理解・共感できることが必要になるという。成功したITベンチャーの創業者がしばしば技術者であり、自分が最初のユーザーとしてサービスを設計していたという事実は、まさに対象への棲みこみの典型例だと思う。
現実の経営者はどこかで見切って跳ぶ必要がある。そのとき有能な経営者は跳躍の先に何かが潜んでいることを感じ取り、しかもそれが経営的努力に見合う「価値ある何か」であることの確信を持っているものだという。なんだか超能力みたいに思えるが、人間の才能の真理を突いた表現であるように思える。多くの道で達人と呼ばれる人は、暗黙知の直観で対象を正確に見極めることができる。経営者でも同じことが言えたっておかしくはないのである。
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