夜中に犬に起こった奇妙な事件
世界で1000万部を突破したベストセラー。
自閉症の秀才の視点で書かれたという設定のミステリ風小説。主人公のクリストファーは養護学校に通う自閉症児。他者の感情を読み取ることができず、対人プレッシャーがかかるとすぐパニックを起こしてしまう。その一方で数学の能力は飛びぬけていて、もうすぐ大学レベルの上級試験を受けようとしている。
母親は亡くなっており、面倒を見てくれる父親と二人で、閉じられた世界の中で静かに暮らしていた。ある日、隣の家の犬が何者かによって殺されるという事件が起きる。クリストファーはその第一発見者になるが、説明が誤解されて犯人扱いされてしまう。調べに来た警官を殴って警察へ連行されてしまう。
濡れ衣を晴らすというよりも、事件という難解なパズルを解くことに興味を覚えるクリストファーは、犬殺しの犯人を捜すべく、自ら近隣の聞き込みを始めることにした。その捜査はまたトラブルを招き、多くの騒動を巻き起こすが、やがて意外な真実を明らかにする。
健常者は他人が笑ったり、涙を流していれば、直感的に相手の感情を感じることができる。しかし、自閉症の患者は、その表情や態度を客観的にデータとして分析しないと、他人の心理が理解できない。ああ、この人は大きな声を出しているから怒っているのだ、とか、眉毛を上げたということは気に入らないという合図だとか、論理的に感情を推測する必要がある。
すべてが終わった後に事件を振り返って、劇中の主人公のクリストファーが書いた小説ということになっているが、本当は自閉症児とのつきあいが深かった著者が書いたフィクションである。その観察に基づいて不自由な他者認識を完全シミュレートしたのがこの作品なのだ。マイノリティの世界認識では世の中すべてが奇妙なミステリみたいなものだということがよくわかる。
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