増大派に告ぐ
この小説は傑作なのだが、外山恒一の都知事選の政見放送も今思い返しても傑作だった。
・東京都知事候補 外山恒一 政権放送
「諸君。私は諸君を軽蔑している。
このくだらない国を、そのシステムを、支えてきたのは諸君に他ならないからだ。
正確に言えば、諸君の中の多数派は私の敵だ!
私は、諸君の中の少数派に呼びかけている。
少数派の諸君。今こそ団結し、立ち上がらなければならない。
奴ら多数派はやりたい放題だ!
我々少数派が、いよいよもって生きにくい世の中が作られようとしている!
少数派の諸君。選挙で何かが変わると思ったら大間違いだ!
しょせん選挙なんか、多数派のお祭りにすぎない!
我々少数派にとって、選挙ほどばかばかしいものはない!
多数決で決めれば、多数派が勝つに決まってるじゃないか!」
外山氏の言う多数派というのがマインド的にはこの作品の中の「増大派」に近い。勝ち目がない外山恒一氏は「減少派」の典型サンプルだ。私はつねづね人間は100%、イヌ(タヌキ)系、ネコ(キツネ)系に弁別できるなあと思っていたのだが、増大派と減少派に分けることも可能なのだな。
主人公の少年は片目をつぶって、つぶったほうの目の闇を、見えている目の光景に重ね合わせる。そういう見方で周りの人間を見て、闇が深く見える人は増大派、薄い人は減少派だ。団地に棲みつく妄想凶ホームレスと、父親の暴力に追い込まれた少年の二人の減少派同士の危うい関係が、やがて最悪な感じのカタストロフィーを呼び込んでしまう。
悲壮な話なんだけれど、なんだかふきだしてしまう。自分は減少派だと思っている人にはそんなふうに苦面白い小説である。というか、これを読んで面白いと思う人が減少派なのだ。増大派減少派の診断ツールでもある。
日本ファンタジーのベル大賞受賞
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