1Q84
大晦日。
それでは、そろそろ1Q84についても一言、言っておくか(笑)。
私も読みました。面白かった。今年のフィクション ベスト5には入る。でも1位ではないなあというのが感想。ノーベル賞候補になったが故の、7年ぶりの新作だった故の、バブルが入っている気がする。日本文学にとっては人気があって、それはそれでいいのだが、本来読者対象でない人も手に取ってしまうミスマッチが起きているような気もする。
オリコンの調べによると、2009年度に最も売れた本は『1Q84 BOOK1』で108万部だった。第3位に『1Q84 BOOK2』が89万部でランクインしている。流行のケータイ小説やライトノベルとは違って、なかなか難解な文学作品が合計で200万部も売れたことに驚く。
ところで本当に皆さん読みましたか?
このブログの読者は読んでいそうだけれども、そういう人は全体ではマイノリティなんじゃないだろうか。購入者のうち半分以上の人が読み終わっていないような気がするのだ。BOOK1とBOOK2は108:89と部数がきわめて近接している。同時発売だったので一緒に購入した人がほとんどだったのではないかと、私はにらんでいる。だから1Q84 BOOK2の部数がBOOK1の完読率というわけではないはずだ。私の周囲で買ったという人に感想を聞いて回ったけれど、ちゃんと返ってきたのは2人しかいなかった。
整理された短い文章の積み重ねで書かれているから、読むのは決して苦痛ではないが(っていうか相当に楽しいが)、話は後半にいくに従い錯綜している。多くのモチーフとメタファーに彩られているので、通読するには相当の知的労働を強いられる。
まずタイトルの『1Q84』が、ジョージオーウェルの『1984』が連想させる。リトルピープルというのが出てくるが、これはビッグブラザーに対応している。作品中に登場する新興宗教は実在の宗教団体とよく似ている、などなど、
作中の○○は□□であり、××は△△のことだ
を挙げ始めるときりがない。そうした関係性を指摘したり、事物の含意を説明していけば、いくらでも解説が長く書けそうである。そうした関係性を指摘したり、事物の含意を説明していけば、いくらでも解説が長く書けそうである。実際たくさんの解説本が出版されている。こうして話題が話題を呼ぶ。
100万部売れることやメディアで取り上げられること。こうした状況を含めて、この1Q84という作品は村上春樹によってプロデュースされているように感じた。作中で主人公のひとり天吾書いた小説「空気さなぎ」がメディアで話題になる場面があるが、天吾は村上春樹のアバターであり、「空気さなぎ」は「1Q84」のメタファーである。作中ですべての謎が明らかにされないことへの不満に、現実世界ではBook3の出版を発表した。1Q84はまだプロデュースが継続中のメタ・メディア小説なのである。書評は3の後に書くべきかもしれない。
自己言及の迷宮の中でパラレルワールドとしての20年前の日本が現れる。鍛え上げられた肉体の如く無駄のない文体、バッハのバロック音楽の如く緻密な構成に、村上春樹ってやはりすごい実力を持っているなあと、しびれる。ただ100万人が読んで感動する話かというとそれはちょっとどうかなと疑問に思う。
また、今年の小説では高村薫「太陽を曳く馬」が内容的に1Q84に近い内容である。宗教や実在論についての深み、凄味では1Q84よりもこちらに軍配を上げたい。
・太陽を曳く馬
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/10/post-1080.html
とかなんとか書いているが、1Q84、現代文学の傑作であることに間違いないし、Book3が楽しみである。
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