ロスト・トレイン
大変面白かった。
「日本のどこかにまだ誰にも知られていない、まぼろしの廃線跡がある。それを見つけて始発駅から終着駅までたどれば、ある奇跡が起こる。」。テツ(鉄道ファン)の間に広まる噂とそこから始まるスタンドバイミーのような冒険のストーリー。2008年『天使の歩廊―ある建築家をめぐる物語』で第20回日本ファンタジーノベル大賞を受賞した中村 弦の受賞後第一作。
「わたしはどきどき思うのですが、人の一生というのは鉄道に乗るのと似ています。どこへでも自由い行けるかのように見えて、じつはそれほど自由があるわけではない。すすむべき線路は一本ではないけれど、あらかじめ親や学校や社会によって幾通りかのレールが敷かれていて、ほとんどの場合そのきめられたなかから選ぶしかない。とこどころ乗り換え駅があるけれど、よくよく注意しないと番線や列車をまちがえて、目指しているのとは全くちがう場所へ連れていかれてしまう。私は乗り換え駅に着くたびに、乗るべき列車を選びそこなっていたような気がしますよ」
と言う初老の平間さんと、廃線巡りで知り合った若いぼく。世代を超えて鉄道談義で親交を深める二人だが、突然の平間さんの失踪。ぼくは残されたわずかなてがかりを頼りに、旅行代理店の菜月さんと一緒に平間さんの行方を探す。
テツの蘊蓄とミステリーと恋愛と少しオカルト要素をからめて、鉄道ファンタジー小説という独特の新ジャンルを確立している。テツでない人にテツがわかりやすく教える場面が多いので、読者はテツでなくても大丈夫。
マニアックなテツの生態がネタにされているが、作品全体としてはさわやか青春小説。昨今の日本のファンタジー路線的には恒川光太郎の異界モノが好きな人に特におすすめ。
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