昨日の神様
傑作映画『ゆれる』の監督西川美和が、小説家モードで書いた短編小説5編。直木賞ノミネート作品。
主に僻地の医者を主人公にしている。人間の心の機微を描くのがうまい。日常の中にある無数の小さなドラマを浮かび上がらせる。内気な子供の心の動きみたいなものをよくとらえているなあと感心してしまう。
特に「1983年のほたる」。街まで往復何時間もかかってバスで塾通いをする田舎の少女とバスの運転手との微妙な関係の物語。運転手の方は好意的に話しかけているのに、少女は毛嫌いしている。そんな関係の二人が深夜のバスに乗っている時、村の住人を巻き込む交通事故が起きてしまう。それがきっかけでそれまで少女には見えていなかった隣人たちの人生を垣間見るという話。
収録作品のうち一本「ディアドクター」はこの映画の原作でもある。父親が倒れてたことをきっかけに、病院の待合室で久々に再会した兄弟の心の葛藤を描く。本の数時間の話なのだけれど、兄と弟の人生模様がよく伝わってくる印象的な作品だった。映画はまだ観ていない。
久しぶりに故郷へ帰ったカメラマン(オダギリジョー)は、兄と一緒に幼ななじみの千恵子と峡谷へドライブする。兄と千恵子が二人で吊橋を渡ったときに千恵子が転落死してしまう。これは事故なのか殺人なのか?揺れる吊橋のようにゆれる関係者の心。手に汗握るサスペンスであり、心揺り動かされる人間ドラマ。西川美和監督のファンになった。
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