古代中国の虚像と実像
「二千年以上も昔の話であるから、こうした誤解は放っておいてもたいした害はないのだろうが、私は非科学的なものが嫌いなので、あえて虚像を指摘し、それを正す文章を書くことにした。 夢のない話を延々とするので、「現実的な話は聞きたくない」という人は、本書を読まないことをお薦めしたい。」
実にむかつく本である。
ちょっと著者を張り倒したくなる。
だが、古代中国好きには面白いことが書いてあるため、読み進めないわけにもいかない。
夏王朝はなかった。
紂王は酒池肉林をしなかった。
『孫子』は孫子がつくっていない。
焚書はあったが坑儒はなかった。
徐福は日本に来なかった。
四面楚歌も虞美人も作り話だ。
孔子の論語は当時から理想論だった
数々の物語を生み出した「古代のロマン」や、有難い「人生の指針」の根拠が、事実ではなくて後世の作り話やウソだったことが暴かれていく。
史料からの推定だけでなく、殷王朝で為政者が政治の意思決定に使った甲骨占卜を実際に骨を焼いて試してみているのが面白い。出土した甲骨は実際には吉や大吉ばかりであり、王の行動を否定するものはほとんどないことに著者は注目していた。あらかじめ甲骨に掘られていた筋は結果を操作するためのものではないかと考えて、実証して見せたのだ。
「つまり、殷王朝の甲骨占卜は、表面上は政策を決定する手段であるが、実際には決定された政策を宣言あるいは承認する儀礼的な行為だったのである。したがって、殷王朝は不確かな占いに頼って政治をしていたのではなく、占いを政治的に利用していたということになる。」
と結論する。いい研究なのだが、この著者のおかげで甲骨占卜の神秘性はなくなってしまう。
そういう話ばかりが延々と続くので、古代中国を舞台にした映画や漫画をみるとき「でも、ほんとうは違うんだよなあ、これ」と思いだすことになるだろう。古代中国が好きな人は、読むべきか読まざるべきか、実に悩ましい本である。
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