2008年度 年間オススメ書籍ランキング ノンフィクション部門
注意。
このランキングは1年遅れの2008年度のランキングです。私が昨年2008年中に読んで面白かった本です。毎年、フィクション部門とノンフィクション部門で、オススメ書籍を発表してきましたが、2008年度はフィクション美門だけ発表してノンフィクション部門の発表を忘れていたことに、この年末になって気がつきました。
2008年度 年間オススメ書籍ランキング フィクション部門
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/01/2008-3.html
これと対になります。
そういうわけで周回遅れの2008年度 年間オススメ書籍ランキング ノンフィクション部門です。この年度は私の読書傾向がはっきりしていて新刊よりも既刊・古典ばかりが並ぶ結果になりました。
2009年度版は年始に発表予定。
■1位 シッダールタ
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/02/post-708.html
この本は最終章で解脱の境地に至ったシッダールタが語る人生の総括にすべてがある。「愛」とは何か、「時間」とは何か、「人は何のために生きるか」に対して現代日本に生きる私にも説得力のある答えが書かれていた。90年近く前にドイツ人の作家がこれを書いたということに驚かされる。学生時代に「車輪の下」を読んでもスルーだったノーベル賞作家なのだが、こちらはズシンときた。
■2位 脳は美をいかに感じるか―ピカソやモネが見た世界
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/04/post-742.html
美術の目的は脳機能の延長にあるという科学的美術論。ピカソ、フェルメール、ミケランジェロ、モネ、モンドリアンなど古今東西の美術作品を、脳はなぜ美しいと感じるのか、脳科学の研究成果と結びつけて解説していく。美とは何かという哲学的問題ととらえられてきた難問に対して、著者は明解な科学的な回答を提示する。
■3位 愛の空間
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/04/oso.html
・愛の空間
大変面白い。日本独特の文化である「性行為専用空間」の歴史学。井上章一が10年がかりで書いた傑作。好事家もここまで極めると新学問の開祖といってもよさそう。
■4位 選挙のパラドクス―なぜあの人が選ばれるのか?
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/10/post-864.html
ノーベル経済学賞受賞の経済学者ケネス・アローは、いかなる投票方法を持ってしても、票割れなどの好ましくない状況を完全に排除することはできないということを論理的に証明して見せた。アローの不可能性定理は民主主義の致命的欠陥ともいわれる。民衆が三人以上の候補者から最適な一人を選ぶことは、とても難しいことなのだ。
■5位 人はいかに学ぶか―日常的認知の世界
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/10/post-846.html
私たちは学校教育で教師から知識を学ぶ。一方で習わないこともたくさんある。日常を生きる上で必要な基本能力を私たちは「教え手なし」で獲得できる。学校に行かなくても生きていく基本能力は自然に備わる。発達心理学と認知科学を専門とする著者は、人間はこれまで一般に考えられてきたよりもずっと有能な学び手なのだという。現実的必要から学ぶとき人は教師から学ぶのとは異なる強力な学習をする。この本はそうした日常的認知の能力を解明しようとしている。
■6位 日本文化の模倣と創造―オリジナリティとは何か
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/05/post-756.html
コンテンツビジネスに関わるすべての人が一読の価値ありの名著。日本と世界の文化史における模倣と創造の関係を多面的に検証し、ものまねではないオリジナリティの追究という幻想を打ち壊す。歴史を振り返ってみれば、ものまねこそクリエイティティの源泉だったのである。
■7位 J・S・バッハ
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/06/js.html
楽聖と呼ばれるバッハの人柄や生活、職場や家庭について、この本ではじめて知ることができた。バッハは世襲の名門音楽家職に生まれたが、当時の音楽家は職人の一種であった。徒弟として師に学び職人修行の末に独立した楽士になるものだった。バッハはそうした職人気質の世界でも並外れて頑固で妥協を許さない性格で知られ、それが出世にマイナスに響いた部分もあり、高名ではあるが必ずしも時代の寵児で人気者というわけではなかったようだ。そして、そうであるが故にバッハの厳格さと倹約の精神はいっそう強くなったとらしい。
■8位 イスラーム文化 その根柢にあるもの
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/09/post-822.html
中東問題の記事を読むときに出てくるスンニー派、シーア派などが何を意味しているか根本的な理解ができる。インターネットで世界はすっかりつながった感じがあるが、文化的に断絶しているのが日本とイスラーム世界だと思う。日本人は一般に宗教を嫌うから外国の文化だけを理解しようとする。しかしイスラーム世界の場合、それでは無意味だということがわかる。イスラーム世界の文化的枠組を理解する名著である。
■9位 オオカミ少女はいなかった 心理学の神話をめぐる冒険
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/11/post-871.html
この本には、オオカミ少女とサブリミナルのほか、言語と虹の色の数の関係、双生児の研究、なぜ母親は左胸で抱くか、プラナリアの学習実験、恐怖条件づけとワトソンの育児書など、どこかで聞いた話が次々に出てくる。意識的にあるいは無意識に実験者が結果を作り出してしまう事例の研究書だ。読み物としても面白い。
■10位 マインド・タイム 脳と意識の時間
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/01/post-689.html
認知科学で有名な意識の遅延に関する理論を、研究の第一人者の認知心理学者ベンジャミン・リベット自らが一般向けに語っている。この理論によると。私たちが意識の上で「今」だと感じている瞬間は正確には0.5秒くらい前なのである。
■11位 日本人と日本文化
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/03/post-716.html
司馬遼太郎とドナルド・キーンの対談。古典的名著。キーンの日本文化についての知識の幅広さと深さに驚かされる。議論の中で何度も司馬遼太郎が防戦側に回っているように感じた。8本の対談が収録されている。議論はだいたい日本らしさ、日本人らしさとは何か、ということに収斂する。キーンに言わせると歴史的にみて「日本人はいつも何が日本的であるかということについて心配する」民族であったらしい。
■12位 中空構造日本の深層
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/12/post-882.html
今読むと、多様な思想を共存させるエコシステムとして、日本人の精神の深層にある中空・均衡構造は、ネットワーク時代の世界が持つべき構造のヒントになりえる気もする。欧米型の中心統合構造に対して日本は劣っているのではなく、むしろ中空・均衡構造という優れた構造を持っているのだと胸を張るべきなのだ。まあ、胸を張って言わないのが中空均衡構造のリーダーでもあるのだけれど。
■13位 迷惑な進化―病気の遺伝子はどこから来たのか
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/05/post-759.html
ガンや糖尿病など遺伝が関係する病気は数多い。なぜ人類は進化の過程でこうした病気をなくすことができなかったのか。進化とは有害な遺伝子を淘汰して、役に立つ遺伝子だけを残すという取捨選択のプロセスではなかったのか?。気鋭の進化医学者が進化の仕組みについての最新の科学的見解を披露する。
■14位 「信用偏差値」―あなたを格付けする
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/12/post-885.html
「日本では、五百万円借りている人と一千万円借りている人を比べると一千万円借りている人の方がリスクが高いとみなされ、警戒される。ところが、米国では一千万円、二千万円借り入れていても、その人が返済しているのなら、信用があると、前向きに判断される。返済ができているのは、それだけ収入があるからだと、考えているためだ。」
■15位 戦場の生存術
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/05/post-757.html
1942年生まれ、1961年慶応大学在学中に傭兵部隊の一員としてコンゴ動乱に参加、その後、フランス外人部隊教官を経て、アメリカ陸軍特殊部隊に加わる、というプロフィールの日本人傭兵が書いた、正真正銘のサバイバル術。そんじょそこらの趣味的サバイバル本とはレベルが違う。平和ボケしている私たち日本人だが、平和ボケしていられることの幸福をかみしめるために、この本は価値があると思う。こんなノウハウが使われる日が来てはいけないし、一般人が知る必要もないのがよい社会のはずだ。ただ、戦争の恐ろしさを確認するために価値がある一冊かもしれない。老人の戦場体験よりも恐怖のリアリティが伝わってくる。
■16位 美を脳から考える―芸術への生物学的探検
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/06/post-777.html
こうした美の原理の発見は、美の創造にも役立つ基礎データになるだろう。音楽におけるリズムの研究やダンスの研究の章もあるが、結論として世界中で言語は違っても、詩や音楽、会話のテンポは似ているのだ。その普遍性には聴覚器官の知覚能力や脳の情報処理能力と深い関係があるようだ。
■17位 日本の統治構造―官僚内閣制から議院内閣制へ
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/06/post-773.html
私の受けた日本の教育では、国の運営について肝心のところを教えてもらえなかったと不満に思っている。社会の教科書には、憲法の主旨、三権分立の概念、二院制、選挙制度など日本のハードウェア構成は書いてあるのだが、それらが実際にどう運用されているのかの話はほとんど書かれていなかったと思う。90年代以降の改革の意味も含めて具体的にわかりやすく説明がある。高校や大学の授業でこれを教えるべきである。政治学者が書く一般書のお手本になる名著だと思った。
■18位 遊びと人間
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/07/post-803.html
1958年にロジェ・カイヨワが書いた遊戯論の古典。特に遊びの定義と4分類は後の研究に大きな影響を与えた。遊びは人間だけのものではない。動物の子供も遊ぶ。遊びは動物に共通する本能である。その基本的な本能を公共のために飼い慣らすことができたのが人間の成功の秘密だったのかもしれない。カイヨワの遊戯論は後半でいつのまにか文明論に発展していく。読み応えたっぷりである。
■19位 大人問題
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/08/post-798.html
絵本作家の五味太郎が大人向けに書いた教育論。子どもにとって大人は有害だと宣言する。子どもに問題があるのではなくて大人"は"問題であり、大人"が"問題であり、大人"の"問題であるのだ。大人問題の本。かつて大人や学校や大嫌いだった人(私はそうでした)には、拍手喝采の名言集である。
■20位 津山三十人殺し―日本犯罪史上空前の惨劇
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/10/post-853.html
岡山県苫田郡西加茂村大字行重部落。昭和13年5月21日午前1時40分頃、農業 都井睦雄(22歳)は寝所から起きだすと、黒詰襟の服を着込み、足にはゲートルと地下足袋、頭に二本の懐中電灯をとりつけた。猛獣狩用猟銃を持ち、日本刀を腰に下げて、外に出ると、まず村の電線を断ち切り村を停電させた。世界的にも類例がないほどの単独犯による大量殺人事件の始まりであった。
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