アメリカで大論争!! 若者はホントにバカか
いかにデジタル・テクノロジーが若者の知性を奪い、国の将来を脅かすかを語り、全米で大議論を巻き起こした問題提起の本。
米国の少年少女の読書時間は1日平均たった7分しかないこと、読んだとしてもマンガであること。博物館や美術館には行かずに、ゲームやネットばかりの時間の使い方をしていること。ローマ法王はイギリスのパリにいると答えたり、アメリカ建国の経緯を知らなかったり63%がイラクの位置を知らないなど、山のように若者の無知を示すデータが並ぶ。
著者によるとデジタル・テクノロジーによって引きこもり環境をつくって閉じこもることが、若者がバカになった原因だと断言する。
「若者たちは世間の現実に無関心だ」と言うだけでは不十分である。若者たちはわざと現実との関係を断っているのだ。言いかえれば、身近な現実に閉じこもっていて、友人、勉強、ファッション、車、ポップミュージック、テレビ・ラジオの連続ホームコメディ、フェイスブック(友人などと交流するソーシャル・ネットワーキング・サービスの一つ)以外を遮断しているのだ。日々受け取っている情報や相互のやりとりは、ごく一部に限られていたり表面的であって、政府、外交、内政、歴史、芸術が入りこむことは絶対にない。」
ネットを使えば自分が知りたい情報だけに囲まれて生きることができる。
「ある討論会で16歳の女性パネリストはこう明言した。RSS(サイトの情報を配信するフォーマット)」ばかり頼っていれば「もっと広い世界」が見えなくなってしまうのではとの問いに、「もっと広い世界なんかみたくありません。自分が見たいものだけ見たいのです」。」
こうして視野が狭くなっていくことは確かに情報化時代の落とし穴だ。ネット世代の情報収集を、RSSに象徴させて問題提起をしたのは鋭いなと思った。
だが現在のサブカルチャーが次の世代のカルチャーになることを考えると、上の世代が知らない世界を若い世代は先取りしているのだとも言える。知っていることの総量が減った=バカという構図は必ずしも当たっていないのではないか?とも思える。
著者は読書に関する討論会での若者とのやりとりを次のように紹介している。
「きみたちは、今の下院議長が誰かより、『アメリカン・アイドル』で誰が選ばれたかのほうを6倍も知りたいんだ」と私があおってみたところ、1人の女子学生がこう切り返してきた。『アメリカン・アイドル』のほうが重要なんです。」
そして、若者は世界の指導者よりアイドルが重要だと考えるようなバカだと語る。
だが、これはどうだろうか。私は著者もバカであると思う。若者はある意味では正しい判断をしているのではないか。アメリカン・アイドルで彼らが投票で選ぶ同世代のスターは将来、ただのアイドルを超えて、若者世代の指導者になる可能性がある。少なくとももうすぐ引退の下院議長より、彼らの人生にとって重大な影響力を持つだろう。上の世代のリーダーは選べないが、次世代のリーダーは自分たちで選ぶことができるのだから。
若者はホントにバカか?。これはアメリカだけの問題ではない。日本でも同様のことを言う人たちがいる。
結局、バランスの問題なのだと思う。
老人が最近の若者はバカだ、けしからんと言い続けてきたのが人類の歴史だろう。それを検証しようと思って私は、
・「近頃の若者はなっとらん」と上の世代が下の世代を批判した最古の文献(石板や壁画含む)を教えてください。出典(URLが望ましい)をつけてください。
http://q.hatena.ne.jp/1259504330
という質問をネットに投げかけたのであるが(リンク先を読むと答えがわかる。同時に私がバカだったことが分かる)、数千年前の古代エジプトやアッシリアの石板にもそんなぼやきが書かれていたのだ。
だが実際に若者がバカで滅びたことは一度もなかった。むしろ優れていたから人類の歴史は進歩してきた。同時にそれは上の世代が若者はバカだと警鐘を鳴らし続けてきた歴史と見ることもできる。両世代のせめぎ合いによって、人類はなんとかなってきたのだ。だから、若者はバカではないが、若者バカ論が絶えてもいけないのだ。
そういう意味においてこの本は時代の抑制力であって、まるっきりバカでもないが極めて主張が一面的である。本書の対抗馬である『ダメなものは、タメになる』と一緒に読むとバランスがとれると思う。
・ダメなものは、タメになる テレビやゲームは頭を良くしている
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/02/post-937.html
・ゲームと犯罪と子どもたち ――ハーバード大学医学部の大規模調査より
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/06/post-1015.html
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