デジタルコンテンツをめぐる現状報告―出版コンテンツ研究会報告2009
・デジタルコンテンツをめぐる現状報告―出版コンテンツ研究会報告2009
出版コンテンツ研究会(座長:高野明彦 国立情報学研究所)がデジタルコンテンツの前線で人々はどう考えているのか?というテーマで、有識者5人にインタビューした。出版業界の状況を知る統計データも充実している。考える材料がいっぱいの本だ。5本のセミナーに参加したような読後感。
岩本 敏 小学館社長室顧問
佐々木 隆一 モバイルブック・ジェービー代表取締役会長
加茂 竜一 印刷会社勤務
境 真良 経済産業省情報経済課課長補佐
小林 弘人 インフォバーン代表取締役CEO
という顔ぶれ。
出版業界は、実は書籍の売り上げはそれほど減っていないが、新聞と雑誌がインターネットなどに食われて危機的な状況を迎えている。ニュースやひまつぶしのコンテンツならば、タダで手に入る状況にあって有料で情報を売る世界は厳しい。
無償コンテンツの時代は無償で書く人たちの時代でもある。インタビュー聞き手のポット出版 沢辺氏から、ブロガーなど「タダでも書く人たち」との連携が重要なのではないかという問題提起があり、小学館の岩本氏はそうした人たちを編集部が組織化してうまく活用できるようにすればいい、山登りの雑誌の編集などは昔からそうだと答えている。
この無償の書き手を、商業媒体が"組織化"して"活用する"という視点はまさに時代の方向性(メディアに読者ブロガーがぶら下がる)だと思うが、瀕死の雑誌 VS 勃興するブログメディアという力関係では、出版社を"活用する"のはおそらく無償の書き手の方だ。有志の無償投稿で成り立ってきた山登り雑誌と違うのは、書き手が半端な雑誌の読者数を超えるメディアを持ってしまったことだろう。主導権は書き手にある。発想は逆の方がうまくいくのではないかと思った。(無論、小学館ほどの大手で実力のある会社はまだまだ安泰なのだろうけれども。)
出版社には紙が大好きな人たちが入社するため、デジタルコンテンツへの展開力が弱いというイノベーションのジレンマみたいな話もあった。作り手のこだわりが変化を拒む。経産省の境氏は業界の体質を次のように指摘する。
「そもそもコンテンツ業界には一つおかしな特徴があって、出版から映像までどこまで行っても、みんな「ビジネスのやり方」について話すことをものすごくタブー視するんです。「いいモノを作れば売れる」という言い方で逃げてしまって、どうやってモノを作り、どうやって流通させればどうお金が回っていくか、お金にまつわる具体的な話は誰もしない。」
日本の製造業はかつて産業全体が上向きな時代には、モノづくりの職人気質が美徳とされた。職人の理想とするモノを作ることで会社が儲かった。職人はむしろ経営のことなんて考えない方がよかった。しかし、成長が減速する時代、消費が多様化した時代には、このやり方では機能しなくなった。同じことが出版業界にもいえるのだと思う。文化的な価値と経済的な価値の両立こそいいモノという発想転換。編集者にこそ起業家精神が必要になったのだと思う。
モバイルブック・ジェービー佐々木氏によると、日本の電子書籍市場で売れているのはアダルト系で7割だそうだ。まともなデジタルコンテンツ市場はまだ手つかずで、膨大な成長の余地を残している。本好きの起業家として、個人的にとても興味がある。最前線の人たちの言葉を読んで、いろいろとアイデアが湧いてきた。
・新世紀メディア論-新聞・雑誌が死ぬ前に
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/08/post-1055.html
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