アフリカ 動きだす9億人市場
かつて暗黒大陸と言われたアフリカが、「施しの対象」としてではなく「世界で最も重要な新興市場の一つ」として、世界経済に台頭する勢いを見せ始めている。アフリカはかつての中国やインドのような、未来の成長市場に変わるという確信で書かれたアフリカ経済の展望の書。
急成長する市場のミドル層「アフリカ2」、人口マジョリティを占める若年層の「チーター世代」、ナイジェリア映画「ノリウッド」の勃興、人間性の経済「ウブントゥ市場」など、アフリカ経済のキーワードを学べる。現地で持続可能な経済を作り出すには、内部に棲みこんだ視点が重要だ。アフリカの国々の個別で特殊な事情は、発展のメリットにもデメリットにもなる。
たとえばアフリカは、通信も金融もインフラが未整備な地域だが、世界でもっとも成長の早い携帯電話市場であるという。2005年にはサハラ以南の人口の60%が携帯電話の通信圏内に入った。2010年には85%まで増える見込み。アフリカ10カ国で携帯電話市場は年間85%以上の成長率を示している。携帯が固定電話やFAXよりも先に来てしまったのだ。
「アフリカなど多くの発展途上地域では、携帯電話こそが初めて手に入れる通信インフラであり、零細企業に事業基盤を与え、地法と世界をつなぎ、知識を広める道具となる。一言でで言えば、携帯電話は経済発展の根幹なのだ。」
アフリカでは全家庭の20%しか銀行口座を持っていない。送金費用は高く、為替レートが不安定だ。金融インフラが未成熟な中で、人々はプリペイド式の通話時間を通貨として流通させているという。携帯で通話時間を購入したり、別の携帯に電子的に送る仕組みを使って、取引を実現しているのだ。携帯があれば銀行店舗やATMがなくてもビジネスができてしまう。
ローカルな習慣に合わせる、利用することが、アフリカ進出の成功の鍵のように見える。モロッコではハヌートと呼ばれる小さな家族経営の雑貨屋が8万店舗あり、地域住民と付け払い制度で信用取引をしているため、外部から大手資本のチェーン店が参入することができなかった。そこへ頭のいい起業家が「ハヌーティ」と名づけた近代的なハヌートのブランドチェーンを組織し、銀行の近代的な金融サービスの窓口として展開して成功している。
韓国のLG電子は、イスラームの犠牲祭という祭日に的を絞ったプロモーションを行った。敬虔なイスラム教徒が子羊を屠る日である。この期間中にLGは年間販売台数の30%を販売した。ラマダンという断食週間にテレビの新番組が始まることに目を付けて薄型テレビを宣伝すると年間売上25%が集中した。里帰りにも着目して成果を上げたりもする。それまで有力ブランドだったソニーを押しのけて年50%近い成長率で拡大してきているという。
インフラの未整備、古い伝統の残存、混沌とした市場環境など、アフリカ経済の特殊な事情は、すべてをアイデアで解決しようとする起業家の魂をくすぐるものがある。アフリカは全人口の41%が15歳以下で(インド33%、ブラジル28%、中国20%)世界でもっとも若い地域だ。現在の人口9億人は次の世代で倍増する見込みである。爆発的成長の素因はそろっている。この混沌とした闇市経済から21世紀後半の大企業が生まれてくるのかもしれない、そんな予感をさせる未来志向の一冊。
トラックバック(0)
このブログ記事を参照しているブログ一覧: アフリカ 動きだす9億人市場
このブログ記事に対するトラックバックURL: http://www.ringolab.com/mt/mt-tb.cgi/2670