人を助けるとはどういうことか 本当の「協力関係」をつくる7つの原則
・人を助けるとはどういうことか 本当の「協力関係」をつくる7つの原則
面白い本だ。おすすめ。
「相手の役に立つこと」を社会心理学的に探究した「支援学」の大家の本。
著者によれば、助け合いの秘訣とは「社会経済」と「面目保持(フェイスワーク)」を理解することだ。社会において助ける人間は感情的に一段高い場所にいて、助けられる人間は一段低い場所にいる。この不均衡が互いの求めていることを見えなくするのだという。感情の帳尻合わせが良好な支援関係には必要なのだ。
「どんな種類にせよ、関係を築くためには、社会経済や面目保持という文化的なルールに敏感であることが求められる。人はそれぞれの関係から何かを得ており、それが適正だと確信できるように。人生という日々のドラマの中で、人は自分の面目や他人の面目がつぶれないように役を演じている。成長するにつれて、われわれは無数の状況への対処法を学ぶ。どの状況も役者や観客の役割を適切に果たすことを求めている。」
普通、人は困っていても、見知らぬ人に助けてもらうのは不安だ。防衛的になったり、事によっては恥辱を感じて憤慨する。依頼者は本当は助けてもらいたいのではなく、話を聞いてもらって安心したり、注目や評価をしてもらいたいだけかもしれない。あるいは差し伸べられる支援に対して、非現実的あるいはステレオタイプな期待を持っていて、それと違う支援を受けると不満を感じるかもしれない。
「要するに、そもそもどんな支援関係も対等な状態にはない。クライアントは一段低い位置にいるため、力が弱く、支援社は一段高い位置にいるため、強力である。支援のプロセスで物事がうまくいかなくなる原因の大半は、当初から存在するこの不均衡を認めず、対処しないせいだ。支援関係を当然なものと見なさずに、実際に築かなければならない理由は、不均衡なのが明らかなのに、それを正す社会経済が明らかでないからである。」
手を差し伸べることで、支援者の権力が強まり、相手の立場をさらに低いものにしてしまうような支援は有益ではない。不均衡な立場では本当のニーズが打ち明けられず、支援内容が不適切なものになりがちだ。有難迷惑なお節介の発生原因である。
支援者の役割は3つあると著者は話す。
1 情報やサービスを提供する専門家
2 さらに突っ込んだ診断と処方まで行う医師
3 クライアントとの関係を最適化するプロセスコンサルタント
である。そして、3を上手にこなすには、双方の本当のニーズを明らかにするための問いかけが大切だという。純粋な問いかけ、診断的な問いかけ、対決的な問いかけ、プロセス指向型の問いかけの4つがある。これらのツールを使って関係性を壊さずに社会経済をバランスさせることが支援学の秘訣なのだ。
チームでメンバーが互いの顔をつぶさずに、本質を批評しあうには、日本人の飲みニケーションも一考だと、米国MITの先生である著者が、高く評価しているのが興味深い。無礼講的空間が、互いの意見を受け入れやすくする。
「こうしたコミュニケーションを安全に生まれさせるには、「オフライン」として定義される、時間や空間が必要である。それによってグループは、対面という基準を棚上げにし、通常は強迫的と取られかねないことを言える雰囲気を作り出せるようになる。前に例としてあげたが、日本の管理職が上司と酒を飲みながら言いたいことを言うのは、この方法の一つである。」
相互作用のネットワークの中で生きる現代人にとって、支援学は必須のテーマだと思う。学校でもこういう話をどんどん教えたらいいのに。上司と部下、クライアントとコンサルタント、教師と生徒、親と子供、夫と妻など、多様な関係性で支援のケースが提示されていて、幅広い読者の役に立つ名著である。
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