デンデラ
これは抜群に面白い。年間ベスト上位に入る。
姥捨て山に捨てられた老婆たちが50人、村の反対側の"デンデラ"で何十年も密かに生き延びて、自分たちを捨てた村への復讐の機会を虎視眈々と狙っていた。新参者の斉藤カユ(70)は、"お山参り"で死に切れなかった自分を情けなく思うのだが、三ツ屋メイ(100)を頂点とする超高齢者コミュニティは、山奥の厳しい生存環境と戦いながら、仲間を増やし、懸命に生き続けることを考えていた。
登場人物50人のうち75歳以上の後期高齢者が30人以上を占めるという、前代未聞の超高齢化社会小説だ。デンデラは男は助けないから女ばかりの集団でもある。老女だけで慢性的な食糧不足を生き抜くためには組織的に働かねばならない。自分たちを捨てた村社会を否定するつもりが、老婆たちもまた、生きるために、もうひとつの村を作らざるを得ないという矛盾。権力が生まれれば、そこには派閥や陰謀が渦巻くし憎しみも生まれる。デンデラは決してこの世の果てのユートピアではなかった。
老婆たちは長い苦難の人生を背負っている。危機到来によって修羅場と化したデンデラで、一人一人が内に秘めてきた情念が噴き出していく。何のために闘い、何のために死ぬのか。凄惨で壮絶な往生際で見えるそれぞれの生き様、雄叫びが重なって、厚みのあるドラマを形作っている。
デンデラはこの世の縮図である。たまたま生き残ってしまった老婆たちと、たまたま生きている我々は同じだ。そして、生き方と死に方を自分で決めることができる人は稀である。そういう人たちのドラマこそが、歴史を紡いでいくわけだが、幸福で満足した人生とそれとはまた別物なのである、なんてことを考えさせられる、深い小説である。
テンポよく読ませる娯楽性もたっぷりな大傑作。おすすめ。
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