脱「でぶスモーカー」の仕事術
元ハーバード・ビジネス・スクール教授でコンサルティング会社経営のデービッド・メイスターの新刊。
でぶスモーカー症候群(短期的誘惑や満足感に負けてためになるとわかっていることをしない)を克服し、成功するための方法論。意欲や決意をどう引き出すかの組織論でもある。著者はプロフェッショナル・サービス・ファーム(PSF)研究の世界的な権威。PSFとは、コンサルティング、会計・法律事務所、建築、エンジニアリング、ITサービスなどの専門分野で、物理的な製品を作るのではなく、人々の才能を使ってアイデアと価値を生み出していく、ナレッジーワーカーの組織のことだ。
プロフェッショナルとはいえ一人一人は弱い人間である。目標達成の報酬は将来にあるが、我慢や不快や規律は目の前にある。だから、わかっちゃいるけどやめられない、とか、明日やることにしよう、ということになる。そうした「でぶスモーカー症候群」を克服することが、ナレッジワーカー組織の生産性を飛躍的に高めることに繋がるのだ。プロ意識を持つ人間とその集団の心理に対して深い洞察にもとづく鋭いアドバイスが続く。
「私たちは自分に甘い。やましさを抱いて生きることはたやすい。かなり強い罪悪感でさえ、人を変えるとはかぎらない。ところが恥ずかしさとなると、たとえそれがわずかでも効果は絶大である。」
「人に弱みを認めさせ、改善させるのに最悪の方法は、その人を批判することである。」
「人はあなたとつき合いたいと思うのは、あなたに好印象を抱いているからではない。あなたといるとき、自分に好印象を抱くからこそいっしょにいたいと思うのだ。」
チームワークの本質を突いた視点に頷かされる。PSFの人材にとって、問題の解決法を見出すことはやさしい。大抵は自分がどうすべきか理性的にわかっているが、それを実行しようとするときの実践の知恵が不足している。ダイエットが続かない、タバコをやめられないという状況にそっくりなのだ。
PSFのケースから抽出された方法論がたくさん紹介されている。
「むしろ、誰かを改善の道へと誘いこみたいなら、将来に控えた仕事の全体像にはまったく触れないで、目前の小さな改善のみに焦点を当てるべきだ。すぐれたコーチはどんな分野の人でもそうしている。」
年寄りは自分ができることを若手ができないのを見ると、ついつい全体像をしゃべって説教みたいになりがちだ。だが、それでは教える方の自己満足である。自主性で楽しみながら発見する道へと、自然に導く方がずっと立派なボスなのだ。メイスター自身が受けて感動したメンターの教え方("このリストに電話してみると良いよ")も具体的に示されていて、わかりやすい。
なお巻末には知識経営の専門家で、多摩大学大学院教授の紺野登氏が「知識時代におけるリーダーの実践経営学」として、本書を含むデービット・メイスターの過去の仕事を振り返っている。時代は製造業からサービス業へ、知識労働を通じて経済的価値を生み出す企業の時代へと向かっている。そんな中でメイスターが探究してきたPSF型組織は一部の業種のものではなく、未来の創造的な企業の姿としてとらえなおす価値のあるモデルなのである。
・脱「でぶスモーカー」の仕事術 公式サポートサイト
http://www.knowledgeinnovation.org/publi/Maister_book.html
何故、今PSFなのか?などデービット・メイスターと紺野教授の対談。
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