狐媚記
・狐媚記
先日、新宿のオペラシティ アートギャラリーで開催(~9月27日)されている鴻池朋子の集大成的な現代アート展覧会「インタートラベラー 神話と遊ぶ人」を見てきた。鴻池の妄想による神話体系。会場に漂う濃密な妖気に圧倒された。私はたまたま他の鑑賞者がほとんどいなかったため、この展覧会で大切な密室感や静寂さをフルに味わえた。空いている時間帯に鑑賞することを強くおすすめする。
・鴻池朋子 展 インタートラベラー 神話と遊ぶ人
http://www.operacity.jp/ag/exh108/
この狐媚記の世界観も出展作品のモチーフのひとつとして取り入れられている。私は展覧会を見た後ミュージアムショップで見つけた。読んでから見ると一層良いと思う。
「北の方が狐の子を産みおとしてしまったという事実が知れわたったとき、左少将の屋敷内のものはことごとく茫然自失して、発すべきことばもなかった。」
人とそうでないものの境界に棲む魔を描いた澁澤龍彦の怪異小説に、アーティスト 鴻池朋子が挿絵をつけた合作。現代アートと澁澤の融合で独特のホラー・ドラコニア少女小説集成の中でもイチオシの出来。鴻池の表現の持つケモノ感がはまっている。
澁澤のあとがきにかえた解説「存在の不安」も単なる作品説明ではなくて、読み応えのあるエロス論となっている。
「プラトンによると、原初の人間は両性具有であって、その容姿は球形であった。ところが傲慢な人間どもが神々に逆らって、天上へ攻めのぼろうとしたので、ゼウスが怒って彼らの身体を二つに切断してしまった。 それ以来、人間は元の姿が二つに断ち切られてしまったので、それぞれ自分の半身を求めて、ふたたび一身同体になろうと熱望するようになった、というのである。この古い神話は、じつに貴重な示唆をふくんでいる。エロスの働きは、この二つに分離した男と女を、ふたたび一つに結合させようとする、失われた統一への郷愁なのである。たぶん、人間の最も深い欲求は、この分離を何とかして克服し、存在の宿命的な孤独地獄から逃れようという欲求なのであろう。」
小説を読んで展覧会を見ると相乗効果。澁澤も鴻池も凄いな。
・うつろ舟―渋澤龍彦コレクション
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/05/post-993.html
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