ヘルタースケルター
ハイリスクな全身整形医療により完璧な美を手に入れて、芸能界で華々しく脚光を浴びる女優でモデルのりりこ。だが、その偽りの美しさを維持するには高額の継続治療が必要であり、危険な副作用に悩まされていた。次々に現れる身体の異常をメイクで隠して、テレビや撮影のハードスケジュールをこなすギリギリの日々。
「あたしはもうすぐ使いものにならなくなる。もっと長くもつかと思ってたけど...。意外と早かったなあ。あたしが売りものにならなくなったら?ママは?あたしを捨てるでしょう。ママだけじゃない。みんな今ちやほやする人たちだって離れていくわ。」
りりこは非情な業界の人間関係への不信感からバランスを崩し、肉体も精神も崩壊させていく。その転落は一蓮托生の周辺の人物たちを巻き込んでいく。人造美女りりこを生み出し「維持費」を投資する事務所の女社長、りりこのわがままに翻弄されながらも魅了され性的にも奉仕するマネージャーとその彼氏、高額美容ビジネスの裏に有力者の腐敗を疑う検察官など、周辺人物の心の深い闇もしっかり描かれている。
2003年度文化庁メディア芸術祭・マンガ部門優秀賞、2004年第8回手塚治虫文化賞・マンガ大賞受賞作。岡崎京子は本作品発表後96年に交通事故にあって入院したまま、いまだ再起していないようだ。続編がありえたかもしれない終わり方なので、いつか復帰して欲しいものだなあ。
ひとりの女の子の落ち方を通して、現代のメディア産業の非人間性や、メディアにとらわれる欲望の果てしなさを描いた。とにかく読み応えのある傑作。
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