撮る自由―肖像権の霧を晴らす
日本写真家協会常務理事、文化庁著作権審議会委員などを歴任した重鎮の写真家が、撮る側の権利という視点で、肖像権の扱いについて問題提起をしている本。たとえば、工場内を敷地の外から望遠で撮影していいのか?OK。店のショーウィンドウのディスプレイを勝手に撮影して良いのか?構わない、どちらも管理権の外だから問題ない、というような話。
「世の中には、「個人の尊厳」「私生活の自由」など、尊重されなければならない「人権」がありますが、そういうものと並んで「撮る自由」も、とても大切だと僕は思うのです。 先ず始めに、端的に言ってしまえば「見ていいものは撮ってもいい」のではないか、と僕は考えるのです。」
著者は個人情報保護法施行以来の過剰反応、行き過ぎた自粛に疑問を感じている。法的には肖像権をめぐる判断は曖昧な部分が多い。弁護士や法学者でさえ撮影と公表の区別ができていないのだと指摘する。
また、公の場所で被写体に気づかれないように撮影する行為は、タブーとされることが多いが、違法行為とはいえないというのも、カメラマンならではの興味深い指摘である。もしこれが本当に違法なら、スナップ写真作品の多くがクロになってしまうだろう。
「見る自由は撮る自由」といっても「チラッと見るくらいが許される場合は、やはり「チラッと撮る」程度のことができると考えればいいでしょう。 「盗み撮り」「隠し撮り」という言葉が昔からありますが、これらは「気づかれないうちに撮る」というスナップ写真の常道であって、最近よく使われている「盗撮」ということばに含まれるような犯罪行為とは全く違うものです。」
肖像権を一般人が勘違いしている現実もある。
「自分の顔というものは、まさに自分だけのものですが、自分が創りだした著作物のように「顔の複製権」があるというわけではないのです。ですから自分の顔が写されたとか、写っているというだけで「肖像権」が侵されたと思うのは間違いです。」
著者は、ビーチでのカメラ撮影をあたかも違法行為のように報道したテレビ局に質問状を出して、回答のやりとりをこの本に公開している。携帯カメラで1億総撮影者になった今、改めて広く議論してみる価値がある問題だと思う。
技術進化の次のフェイズで、目で見た映像をそのまま記録してしまうようなテクノロジーが普及したら、「見ていいものは撮ってもいい」は必然になるだろう。私はこの著者の意見に賛成だ。現在は過渡期な気がする。
・スナップ写真のルールとマナー
http://www.ringolab.com/note/daiya/2007/08/post-627.html
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