アニマルスピリット
ノーベル経済学賞受賞者ジョージ・A・アカロフと『投機バブル根拠なき熱狂』著者ロバート・シラーという二人の著名な学者が、経済におけるアニマルスピリット(行動への突発的な衝動)の本質的な役割を明らかにする。翻訳は山形浩生で解説も書いている。
最近流行の行動経済学は人間の不合理さ(あるいは不合理に見える合理、合理に見える不合理)を強調しているが、そもそもマクロ経済学の父であるケインズが、アニマルスピリットの重要性を指摘していた。
アニマルスピリットの5つの側面として安心、公平さ、腐敗と背信、貨幣錯覚、物語が挙げられている。これら5つの要因が絡み合って、19世紀以降の大恐慌の大きな原因となってきたいう歴史的な説明がとてもわかりやすい。
「本当の問題は、これまで何度も見たように、現在の経済学の相当部分が根底に持っている通念だ。マクロ経済学やファイナンスの専門家のあまりに多くが、「合理的期待」や「効率市場」の方向性を推し進めすぎて、経済危機の根底にある最も重要な力学を考えなくなっている。アニマルスピリットをモデルに導入しないと、問題の本当の原因が見えなくなってしまうのだ。」
なぜ経済は不況に陥るのか、なぜ中央銀行は経済に対して力を持つのか、なぜ仕事を見つけられない人がいるのか、など効率市場の仮説ではうまく答えられない8つの問題に対して、アニマルスピリットの理論を統合すると、腑に落ちる答えが提示される。
人間はとかく物事を物語(アニマルスピリットの一つ)として理解しようとする性質があり、それが経済のダイナミズムを形成する要因となるという話が特に面白かった。現代人にとって財布のひもを緩ませるのは、直接的欲望というよりは、意味のある物語であろう。
「人類は物語をもとに考えるよう創られている。つまり、内的な論理や力学を持ったひと続きの事象で統合された全体として見えるようなものに頼りたがる。おかげで、人間の動機の相当部分は、自分の人生の物語を生きることから生じている。それは自分が自分に言い聞かせる物語であり、それが動機の枠組みとなるわけだ。そういう物語なくしては、人生は「あれこれいろいろ降ってくるばかり」でしかなくなる。同じ事が国や企業や制度に対する安心についても言える。偉大な指導者というのは、まず何よりも物語を作り出せる人物なのだ。」
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