性欲の文化史
・性欲の文化史 1
1.遊廓の形成と近代日本――「囲い込み」と取締り
2.性教育はなぜ男子学生に禁欲を説いたか――1910―40年代の花柳病言説
3.出口王仁三郎の恋愛観・男女観――『霊界物語』を中心として
4.日本女性は不淫不妬?――中華文人の日本風俗観察小史
5.女装男娼のテクニックとセクシュアリティ
6.「胎内十月」の見世物を追って
7.「人体模倣」における生と死と性
8.兄妹性交の回避と禁止
・性欲の文化史 2
1.桂離宮にエロスを読む
2.神仙の証――中国古代房中術にみるセックスと飛翔
3.韓国整形美人事情
4.摩登上海にうかぶ女体の群れ
5.映画のなかの性――戦後映画史における性表現と性意識の変遷
6.「ギャル男」のいる光景
7.男から生まれた女
8.ホステスたちは、何を売る?
井上章一を編者に複数の研究者が性欲の文化史をあらゆる視点から論考する。
「われわれの性感は、文化によって拘束されている。何に感じ、そそられるかは、時代により民族により、ことなっている。たとえばパンツでわくわくする文化史もあれば、そうでもない文化だってある。」「人間の性感を、生物学あるいは生理学的な性欲だけで論じきるのは、まちがっている。」(井上)。
いわゆる"パンチラ"を見た方が歓び、見られると恥ずかしがるというのは日本のローカルな文化なのである。アメリカでは見られた女性がウィンクして去っていくし、中国では「パンツをはいているから平気」なのである。「えへへ」「いやーん」なのは日本だけ(というわけでもないだろうが)文化が性感を作り出している例だ。
「性教育はなぜ男子学生に禁欲を説いたか――1910―40年代の花柳病言説」は、近代の性教育の言説戦略の考察。男子学生に男らしくあれと教えながら同時に禁欲を説いた理由が解明される。そこには結婚前に性交渉すると花柳病に罹患して破滅して志した事業に失敗した上、子供を作ることもできなくなるぞという脅しが含まれる。
「よりよき将来の「男らしさ」の発揮(立身出世と一家をなすこと)に、現在の一時的な「男らしさ」の抑制(性的卓越性の抑制)が貢献する仕組み」を織り込んだ巧みな言説だった。勉強して知識を得ることと子をなすことという近代社会の個人に対する要請に応えるための、国家戦略として性教育が形成されていたのだ。
このほか、魏志倭人伝から女装男娼まで、日本文化と性の歴史が多彩なテーマで多くの話者によって語られている。性欲、性感は自然な本能的な欲求だという見方が、いかに間違っているかを教えられる論考集である。
・日本の女が好きである。
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/06/post-1010.html
・愛の空間
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/04/oso.html
・性の用語集
http://www.ringolab.com/note/daiya/2006/11/post-482.html
・刺青とヌードの美術史―江戸から近代へ
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/07/post-807.html
・ナンパを科学する ヒトのふたつの性戦略
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/04/post-972.html
・ウーマンウォッチング
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/03/post-958.html
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