心霊写真―メディアとスピリチュアル
宗教学者が宗教、科学、芸術の3つの視点で欧米の心霊写真を研究した本。(もちろん心霊写真満載ですが、実はあまり怖くはありませんよ)。
まず19世紀から20世紀初頭の心霊写真の原版は(撮影技術は稚拙だが)芸術作品に近い上質なものが多いことに驚かされる。(それを明らかにするために、この本は印刷にこだわっている)。現代のピンボケ心霊写真とは比較にならない。その洗練の理由の一つが当時の心霊写真は鑑賞を前提として作られたものだったからだ。3000枚も心霊写真を作成したプロの写真家も存在した。人々は誰か大切な人を亡くしたとき、自分の写真を撮ったのである。その横に死者に似た「エクストラ」が浮かび上がってくるのを期待して。
「心霊写真は死別を儀式化し、商業化した。嘆き悲しむ親族や友人たちにとって、心霊写真師の前でポーズを取ることは、故人の生前に「普通の」写真師を訪れたのと同様に、そして個人の死後に葬儀屋に予約を入れるのと同様に、慣習的な行事となった。写真師=霊媒は天国と地上を、死者と生者を、ガラスの板の上で結合させる。この意味で彼らは「司祭」の役割に就いたのである。」
その文化的背景には、
1 写真という科学技術は真実を映し出す信仰
2 不可視のリアリティが実在するという信仰
という人々の意識が横たわっている。霊という古い信仰を新しい技術が支援する関係ができあがった。心霊写真の最初のブームである。もちろん作り物であるから表現方法は時代の影響を受けている。著者は次々に時代背景と表現法の絡みを明らかにしていく。
心霊写真の構図や表現は西欧美術における天使や悪魔などの超自然的存在を図像化するコードと関係があること、ディケンズの小説『クリスマス・キャロル』における亡者達の描写も強い影響を与えたという事例が詳しく紹介されている。たとえば亡霊の文学上の伝統的な表現が「透明」であったため、心霊写真においても霊は半透明で表現されたようなのだ。
「心霊写真は、時代の子として、時代のものの見方、視覚言語、そして画家たちの主題と方法とを反映し、同時にそれに影響を与えた。」。
おそらく同じような現象がUFOやUMA写真、超常現象の報告にも言えるのだろう。私たちは心霊にではなく時代にとらわれているのだ。
・心霊写真 不思議をめぐる事件史
http://www.ringolab.com/note/daiya/2007/08/post-621.html
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