美人好きは罪悪か?
現代における美人の意味をさまざまな角度から問い直すエッセイ集。「もてない男」の評論家 小谷野敦による新書。表題のもてないけど美人が好きはいけませんか問題から始まる。
「二十世紀後半以後の人間は、未曾有の時代を生きているが、テレビや映画で、ふんだんに美女の姿を目にするというのは、昔であればありえない話だった。むろんその国の中心都市には美人が多いから、田舎者が都会へ出て美人に心奪われるといった話も多いけれど、テレビや映画はその比ではない。隣近所の娘たちだけ見て、まあこの程度が美人、と思っていた時代とはえらい違いである。」
「今の日本で、二十代の女性は七百万人くらい、三十代前半まで入れれば一千万人を超える。十人に一人の美人なら七十万から百万人、百人に一人という美人でも、七万人から十万人いるのである。」
メディアに登場する女性は美人が多い。全体では計算上は総数も多い。それにも関わらず、周囲に自分とつきあってくれる美人をみつけるのは難しいわけで、それが現代人に「ある疲れをもたらす」と著者は嘆いている。今は「美への憧れが強いけれど現実の美女を手に入れられない男を大量生産する時代」なわけだ。
メディアは容易に手が届かないものを作り出し、それへの欲望を煽る。そんな状況とどう向き合っていくかというのが、美人問題に限らず他のテーマについても、現代人にとって普遍的な問題なのだろう。美人論はほとんどメディア論である。
著者は近年の文学賞の成功度と受賞者における女性作家(しかも美人)の割合が正比例していることも指摘している。美人だから受賞したわけでなくとも、出版社は美人の経済効果を利用して本を売る。文学の内容もいずれ振り返ったときに、著者が美人であることの影響が出てくるだろう。
他に谷崎潤一郎の描く美人、髪型とヌードの関係、不美人ヌードの味わい、など、どうでもよさそうだがなんだか気になる問題について半ば趣味的に半ば探究的に語り尽くされている。井上章一の近著「日本の女が好きである。」と対で読むと良い内容。
・日本の女が好きである。
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/06/post-1010.html
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