女装と日本人
自身がトランスジェンダー(性別越境者)で性社会史研究者の三橋順子氏が書いた女装からみた日本論。中身が濃い研究成果だ。濃すぎて度肝を抜かれる。著者は本書冒頭で自分は「性同一性障害」という立場を取らないと最初に宣言している。そもそもトランスジェンダーは日本文化の重要な要素であるいう。
「女装のヤマトタケルの物語、男装の神功皇后の風習を考え合わせると、双性的な人が常人と異なる力や「神性」をもつという「双性原理」が、日本の伝統文化の中に根強く存在することは、間違いないと思うのです。」
歌舞伎の女形が人間国宝である日本。盛り場でニューハーフショー、ゲイバーが人気である。テレビを付ければ、美輪明宏やIKKO、おすぎなど性別越境者が活躍する芸能界がある。日本の現代社会はトランスジェンダーに対して比較的寛容だ。欧米キリスト教圏では女装者が迫害されてきた歴史と対比される。
「日本の近現代社会は、上からの「近代化」によって構築された社会システムや「変態性慾」論の影響を受けたインテリ男性の意識は、性別二元・異性愛絶対的で、異性装者や同性愛者に否定的・抑圧的である一方、そうしたものが届かなかった一般庶民の意識は、前近代のままで、異性装者や同性愛者に対して抑圧的ではなく、異性装芸能への嗜好に表れるように異性装者に対しては親和的ですらある、といった二重性をもつことになりました。」
日本神話、僧侶と稚児、歌舞伎の女形、江戸の陰間茶屋、日本のゲイバー営業の歴史(男性同性愛系と女装系)、女装コミュニティや雑誌の昭和全史、著者自身の半世紀など、写真資料も豊富に日本のトランスジェンダー文化を徹底レビューしている。その生々しさに圧倒される。
トランスジェンダー5つの機能として
・宗教的職能
・芸能的職能
・飲食接客的職能
・性的サービス的職能
・男女の仲介者的機能
が総括されていた。
歴史的には、双性の美を愛でるのは男性が中心だったのだが、現代では女性がニューハーフショーやゲイのスタイリストを好むように、女性が消費主体に変化してきたそうである。マーケットとしても広がりを持ち始めた。帯に「"女装"を抜きに日本文化を語れない」とあるが、最近盛んな「ヤンキー論」と並んで「女装論」も日本を読み解く秀逸な着眼点になるのかもしれない。
・〈性〉と日本語―ことばがつくる女と男
http://www.ringolab.com/note/daiya/2007/11/post-669.html
・武士道とエロス
http://www.ringolab.com/note/daiya/2006/06/post-410.html
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