脱出記
壮絶な実話である。発表後、18カ国語に翻訳され50年間のロングセラー。
第二次世界大戦中にポーランド陸軍騎兵隊中尉の若者ラウイッツはソ連当局にスパイと疑われて、無実の罪で逮捕される。厳しい尋問と拷問の末、25年間の強制労働の判決を受けて極寒のシベリアの収容所へ送られた。このまま一生をここで過ごすわけにはいかない。そう考えたラウイッツら仲間6人組は警備の目をかいくぐって決死の大脱走を図る。
まさに世紀の"大"脱走であった。"シベリア"から"モンゴル"を抜け灼熱の"ゴビ砂漠"を縦断した上で"ヒマラヤ山脈"を越えてインドへ向かう徒歩で6000キロ超の逃避行。現代でも各区間の踏破は単体達成でも大冒険の筈だ。脱獄した6人はそれを何の装備もなしに、慢性的な飢えや厳しい暑さ寒さに耐えながら、ひたすら歩きでインドを目指した。想像を絶する苦難と大きな犠牲を伴いながら。
収容所から遠く離れてもロシアの影響力に怯えて6人は町に決して近づかない。人里離れた場所を迂回する。時々は巡礼者と偽り、田舎の村人の世話になることはあったが、基本的に1年半以上もの間、一行は人の目を避けながら独力で、たぶんこっちだろうという方向へ歩き続けた。旅の最終局面まで地図を持たない彼らは正確には自分たちがどこにいるのかを知らなかった。不安は倍増する。
何度となく遭難して全滅する危機に陥るが、仲間の協力と創意工夫ですべての困難を切り抜けていく。諦めなければなんでもできるという話なのだが、何かを諦めそうなときに自分を励ますために読んではいけない本かもしれない。くじけそうなときにこれを読むと普通の感性では"私にはここまで頑張れない、無理"とガクーリしてしまうだろうから。
壮絶な体験記が読みたいという人に間違いなくおすすめ。あとがきで椎名誠が脱出モノの3大作品のひとつとしてこの作品を挙げていた。他の二つも試してみようと思った。なお、著者ラウィッツはその後長生きして2004年に88歳で往生したそうである。よかったなあ。
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