美女の骨格 名画に隠された秘密
骨格をめぐる美術解剖学入門。遺骨から生前の顔を復元する復顔技術があるように、外観の美しさというのは皮一枚の問題ではなく、皮膚の下にこそ隠されている。
巻頭カラーで紹介されているのだが、日本の中世の肖像画や江戸時代の浮世絵など日本美術史における人物の絵画には陰影がなく立体感に乏しい絵がほとんどだ。それに比べて西洋画は骨格的特徴が強調され立体的な表現が多い。そもそも西洋での人体解剖は医師ではなく、自身の作品に構造を反映させようとした芸術家によって始められたそうだ。
人間の顔の見方には「光と影の中に骨格を意識し、立体として顔を捉える見方」と「顔の表面にある諸器官(目、鼻、口、耳)と、眉などのかたちや色、配置を捉える見方」の二つがあると著者は説明する。日本人は主に後者で人の顔を見てきたから、陰影を描いてこなかったのだとする。
なぜそういう見方が定着したかといえば、日本人が平板な顔だからである。舞妓や歌舞伎役者では、まず顔を白く塗ることで平らなキャンバスをつくり骨格の欠点を隠す。その上に化粧で自由に美しい顔を描く。欧米人の彫りの深い顔には向かない芸当である。
欧米人の顔と日本人の顔を白黒のポートレート写真で見ると両者の魅力の違いがはっきりする。彫りが深い欧米人の顔は陰影が濃くなって圧倒的に面白くなる。
・BW Side Light Portrait on Flickr
http://www.flickr.com/groups/bwsidelitportrait/pool/
日本人にも大きくわけて縄文顔と弥生顔の2種類の骨格がある。著者曰く
縄文顔の美女の典型 宮崎あおい
弥生顔の美女の典型 藤原紀香
であるそうだ。こう教えてもらえると典型がイメージしやすくなった。
そして現代の小顔美人の秘密は顎であるという話が興味深い。咀嚼回数が減ると顎が萎縮する。頭骨全体が顎の骨と噛み合うようにできているせいで、顎が小さくなると顔全体が小さくなるというのだ。
現代人の小顔は柔らかいものばかりを食べて顎が脆弱化した成果なのである。遺伝もあるわけだし健康との兼ね合いもあるが、小顔美人を育てるには柔らかいものを食べさせた方が良いということになりそうである。
ちょっと笑えたのが、鼻は始終つまんでいれば本当に高くなるという話。骨格も細胞でできているから新陳代謝による変化の余地があるのだそうで。
美人と骨格。視点がユニークな新書。
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