冷たい肌
『カタルーニャ文学』というから構えて読んだが、まずホラー小説として一級の面白さ。そして人間の相互理解という普遍的テーマについて深く考えさせる。今年読んだ小説でベスト3に入るなあ。100点。
解放運動の夢破れた主人公は絶海の孤島での気象観測の仕事に志願する。前任者と交代するべく島に上陸すると、灯台には何かに取り憑かれたような正体不明の男がいた。対話をひたすらに拒む男に主人公は当惑する。そして日が沈んだとき島は、人間ではない異形の何かの襲撃を受ける。死の危険を前にして、二人の生き残りをかけた戦いが始まる。
私たちヒトは五感で世界を認識しているがヒトにはない感覚を持つ動物も多い。コウモリは超音波を認識できるし、アゲハチョウは紫外線を認識できる。逆に感じることができないものもある。ハエは50センチ以上先は見えなかったり、ワニは動いているものしか認識していない。モンシロチョウは赤が見えない。イヌは色が分からないので、盲導犬は信号を認識することはできない。種が異なれば、感覚できるものとできないものがある。
そしてヒトも動物も生存に必要なものしか見ようとしない。ハエは50センチの視野で食べ物と光しか見ていないだろうから、ヒトが見る部屋の認識とはまるで別物の世界に住んでいる。種ごとに固有の"環世界"が構成されている。
異種間だけでなく同種間での世界観の違いだってかなり大きい。現代のネットワーク社会は異なる"環世界"を持つ人々を時期尚早に結びつけてしまった。宗教と価値観、経済格差、情報格差、言語や文化。世界が自然にひとつに融和するにはまだ何世紀もかかるはずだったところを、テクノロジーがいきなり全体をつないでしまったのだと思う。
人間だから話し合えばいつか理解できるという考え方は、もはや安易で危険でさえあるかもしれない。そもそも話し合いは何語でやるのか?。誰が参加するのか?。話し合いで有利に立てるのは、多数派であり強者であることに、弱者は気がついてしまう。わかりあえる日はこないが、共存する方法を探すということが大切なのではないか?。
などと、人間の相互理解とは何かを考えさせられるパニックホラー小説。
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