うつろ舟―渋澤龍彦コレクション
渋澤龍彦が書いた怪異短編集。表題作他全八編。どれも古典素材の見事な換骨奪胎。幻想ホラー作家としての澁澤龍彦の凄さを知った。
うつろ舟(うつぼ舟ともいう)という江戸時代の伝説がある。ある日、浜に不思議な形の舟が流れ着いて、中には妖しい異国の女性がいたが、役人達は面倒を嫌ってまた海に戻してしまったという話。『南総里見八犬伝』の滝沢馬琴がまとめた怪異物語集『兎園小説』に『虚舟の蛮女』として伝わり、後世に多くの物語の題材に取り上げられている。舟の異様な形態から当時のUFOの目撃談だったのではないかと考える人もいる。
渋澤龍彦の小説でも、舟には異国の女が乗っていて正体不明の箱を抱えていたという筋は伝承に近い形で採用しながらも、より大きな仏教的世界観の別の物語と共鳴させて発展させていく。説話のように道徳を説くでもなく、かといって娯楽作品というわけでもなく、ただただ不思議な怪異として終わらせる手際が見事。
諸星大二郎の漫画のファンに特におすすめ。なお「うつろ舟」は漫画妖怪ハンターシリーズでも取り上げられていた。
この巻の「うつぼ舟の女」がそれ。
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