快楽の本棚―言葉から自由になるための読書案内
作家 津島佑子の自伝的な読書案内。太宰治の娘であるが故に、母親は娘を文学から遠い場所で生きるように導こうとした。文学は暗くて危険なものだと思い込ませた。結果として娘は本当のことを知りたい欲望から文学の世界へと引き寄せられていく。
性への好奇心が文学の入り口となり源氏物語、好色一代男、発禁処分の『チャタレー夫人の恋人』を英文で読んだ。長大な里見八犬伝を「壮大なでっちあげ」への感動で読破する。読んではいけない本、見てはいけない映画に夢中になる。あらゆるものから自由になるために。
「「背徳的」とはつまり、自分の生きている世界をしつこく疑い続けること、おとなたちが隠したがっていることを知りたがることなのだ」
凄く分かる気がする。私も自分の中学高校時代を振り返るとマルクスの資本論やジェイムズ・ジョイスのユリシーズなんかを訳も分からず読んでいた。危険な思想や難解な文学に憧れたからだが、教師から教養のために読めと言われていたら絶対に読む事なんてなかっただろう。
子どもに読書をすすめる上で大変参考になる記述があった。彼女の母親は小説の世界から遠ざけるべく、教育ものの本や図鑑ばかりを小学生の娘に読ませようとした。だが、太宰に惚れた女でもあった母親は、ふとしたはずみに画家北斎の浮世絵を娘に見せながら生き生きとその放縦な生き方を語ることがあったという。
「子どもは親の言葉など聞いてはいない。その顔しか見ていない。そして親の気持を読みとろうとする。私の母は本当にうれしそうに、北斎の話をしていたのだった。それで私も北斎のファンになった。それどころか、自分の生き方の手本として考えるようにさえなった。」
子どもに読ませたいなら、親が本当にうれしそうに読むところを見せると良いのだ。そして読ませたい分野があったら、そういう本は読んではいけないよ、危ないからと禁じておくべきなのだ。子供の健全な好奇心がやがてそうした本ばかりを自主的に開くようになる。知的好奇心とは本質的に天の邪鬼なものなんじゃないか。そんあ気づきを与えてくれる読書案内本であった。
古典のおすすめ本も多数。
・電気馬
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/04/post-968.html
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