日本人の好きなもの―データで読む嗜好と価値観
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調査で判明した、日本人が一番好きなもの各ジャンルトップのリストである。
この本はNHK放送文化研究所が2007年に実施した「日本人の好きなもの調査」のデータ解説本である。全国16歳以上の国民を対象に、住民台帳から層化無作為抽出法による300地点、有効数2394人のアンケート調査であった。アンケートでは好きな食べ物、動物、自然、スポーツ、余暇の過ごし方、季節、言葉、音楽、色、数字など54項目において、複数選択肢(一部質問は自由記入形式)から「好きなもの」を選ぶ形式の質問が提示された。
好きな料理のベスト10は 1位 すし、2位 刺身、3位 ラーメン、4位 みそ汁、5位 焼き魚、6位 焼き肉・鉄板焼き、7位 カレーライス、8位 ギョーザ、9位 サラダ、10位 豚汁、けんちん汁だそうだ。すしは73%に、刺身は67%に、ラーメンは62%に支持された。これだけの数字があるから国民食といえるだろう。
この本には、全項目の上位ランキングと支持率、一部項目で男女比、年代別比、分布図などが掲載されている。マーケティング担当者ならば一度は目を通しておくべき基本データだと思う。データだけでなく親切な解説記事があるので、リファレンスとしてだけでなく読み物としても楽しめる。
経済学の世界でシェリングポイントという概念がある。コミュニケーション手段がない場合に人々が適当に行動した場合、自然に落ち着くであろう、確からしい解決策のことである。たとえば友人と大きな駅で10年後の再会を約束して別れたとする。その後10年間音信不通であった。二人は再会の日にどういう行動を取るだろうか。おそらく"正午"あたりに"中央口""改札"あたりへ行くはずなのである。
そうしたみんなの期待値の焦点をいろいろな点で予測できれば、コミュニケーションでも戦略意志決定でも有利に働く。こうしたランキングの知識はそういう能力のベースになるのではないかと思う。初対面の相手で話題に困ったとき、相手の年代の7割が好むキーワードを知っていれば、まずすべらないであろう。
1983年に行われた前回調査との違いも紹介されるので、四半世紀で日本人の好みがどう変わったのかがよくわかるのが面白い。実はあまり変わっていないのである。前回調査と厳密に同じ比較ができる13項目のうち11項目でトップは同じものだったのだ。変化したのは項目ではなく支持率だった。多くの項目でトップの支持率が低下したのである。
日本人は好きなものが特にない人が増えた、こだわりを持つ人が減った、「融通無碍」で「付和雷同」な層が増えた、と調査チームは総括している。犬を連れて、桜を愛でて、すしを食うのが好きなのは変わらないが、総じてこだわりは減った。その時々の状況でよいものがあれば、梅でも猫でもカレーでも乗り換える。「空気を読んで」状況に応じた言動をするようになったようだ。
この結果には日本人が、無気力・無関心でエネルギーが失われたのだと悲観する人もいるだろう。だが、こだわらなくても満足できて入手可能な選択肢が増えた、ということなんじゃないかと私は考える。かつての強いこだわりには精神的な保険のような側面があった気がするのだ。その保険が必要ないくらい豊かな多様性に暮らせるようになったことを喜んでも良いのではないだろうか。
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