新世界より
1000年後の日本を描いた未来SF小説。『黒い家』(第4回日本ホラー小説大賞大賞)の貴志祐介。第29回日本SF大賞受賞作品。
とにかく面白い。そして深く考えさせられる。同時代性と娯楽性を兼ね備えた大傑作。上下巻1000ページ超の長編だがSF小説ファンは躊躇せずに読んだ方が良い。(私は今年のGWまで挑戦を先延ばしにしてきたのをちょっと後悔)。
未来の人間は科学技術の文明を捨てて、代わりに強大な呪力(超能力)を手に入れていた。彼らは日本の各所に小規模な共同体を作って平和に暮らしている。学校で呪力を習得した大人達は、思念を送ることで物体を自由自在に遠隔操作することができる。達人になれば莫大なエネルギーを炸裂させて、大規模に地形を変えてしまうことさえ可能だった。
呪力を身につけるために学校に通う子供たちが物語の主人公。呪力は生活に役立つと同時に危険な能力だ。子供達は厳密な管理教育と通過儀式によって能力を習得すると同時に安全にその力を行使することを教えられる。仲間達と競い合ったり、助け合いながら能力を開花させていく子供達。学園生活を語る上巻はまるで和製ハリーポッターのよう。
そして主人公達はさまざまな体験を通して自分たちが生まれ育った平和な共同体の闇の部分、教育の内容の矛盾に気がつき始める。共同体を囲む結界の外側に出てはならない理由は?。外の世界に棲息する異様な動物たちは何者か。
一人の人間がコミュニティを壊滅させる力を潜在的に持っている社会。
これって現代社会の縮図なのだと思う。9.11テロを例に出すまでもなく現代人はその気になれば一人で大勢を殺すことができる。飛行機を乗っ取ってビルに激突させる、炭疽菌を送りつける、銃を乱射する。知識や設備があれば爆弾や強力な毒ガスで何万人、何十万人を殺傷することも考えらる。国防核兵器のスイッチを押す権限を持つ為政者であれば、一人で地球規模の破壊を行うこともできるかもしれない。
そして国際化した世界では国境という結界が無効になって、異なる価値観、世界観を持つ異種族、異教徒達と共生しなければいけなくなった。もはや個々の共同体内部の伝統ルールは通じないが、統一ルールを制定しようにも、コミュニケーションの言葉のレベルで議論は紛糾する。そして気がつけばパワーゲームの強者のルールが正当化されている。弱者の不満の圧力は一層高まり、一人のテロリストを産む下地が着々とできあがっていく。
異者との共存、異文化理解、科学と宗教など現代的で重いテーマを幾つも抱えつつも、ミステリあり冒険とパニックあり、恋愛ありと娯楽性もたっぷりに最後までぐいぐい引きつける大作。
・講談社オフィシャルサイト
http://shop.kodansha.jp/bc/books/topics/newworld/
ビジュアル資料あり。
・エア
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/10/post-842.html
同時代性という点ではこの小説もおすすめ。
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