ねじれ脳の行動経済学
感情が人間の判断に影響を与えて合理的でない行動を引き起こす現象を著者は「ねじれ脳」と読んで、多数の事例とパターンを解説する。知的な行動経済学の読み物。交渉術のワザとしても活用できそうなネタがいっぱい。京都大学経済研究所の若手研究者 古川雅一氏の本。
・古川雅一氏のオフィシャルサイト
http://www.furukawamasakazu.com/
この本で何十個も取り上げられているのはこんな"ねじれ"だ。
【感応度逓減性】
お総菜が100円引きから150円引きになると得をした気になって嬉しいが、車を買うときに50万円引きが50万と50円引きになっても嬉しいと思わない。損得とも値が小さいときはその変化に敏感だが大きくなるとだんだん敏感でなくなること。
【利用可能性ヒューリスティック】
ある物事が起こる確率をその例の思いつきやすさで推測すること。「親しみやすさ」「目立ちやすさ」「探しやすさ」「想像しやすさ」の罠。有名芸能人がいる名字を聞くと女性だと連想してしまうようなパターン。
【知識の錯覚】
「自分は多くの時間を情報収集に費やしてきたのだから、その情報に基づいて判断すべきであり、かつその判断は正しいと思い込んでしまう」こと。上司が自分の判断力を過大評価して新人の意見を素直に受けいれられないパターン。
どれも「あるある!」と言いたくなる事例ばかり。例え話がわかりやすい。
著者はまえがきで合理的な行動が「正しい」と言いたいわけではないと書いている。合理的に行動しているつもりが知らず知らず合理的な行動になってしまうことがあるから、見極める力を持つことが重要なのだという。
私は普段、つきあいのある年配の成功した経営者と話すと、しばしば判断に非合理を感じることがある。話をちょっとしか聞かないのに、それは良いとかダメだとか言い切ってしまう。直感的な判断をする。理由を聞くと非論理的な答えしか返ってこない。ところが時間をおいてみると結果としてその経営者の言うことはだいたい当たっているのだ。
年の功というのは、合理的論理的でないけれど、実践的にはうまくいくヒューリスティックスの固まりのようなものかもしれないと思う。合理的な判断は予測されやすいが、非合理な判断は先を読まれにくいということもあるだろう。ねじれ脳は、ねじれを自覚した上で、よくねじって使うのが良いのじゃないかなあ。
人間の非合理的な意志決定パターンを解明する行動経済学の翻訳本はこのブログでも過去に何冊か紹介しているが、これは若手の日本人研究者が書いた本だ。事例の身近さ、親しみやすさも魅力の新書である。
・世界は感情で動く (行動経済学からみる脳のトラップ)
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/03/post-955.html
・予想どおりに不合理
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/12/post-891.html
・人は意外に合理的 新しい経済学で日常生活を読み解く
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/12/post-896.html
・オークションの人間行動学 最新理論からネットオークション必勝法まで
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/10/post-862.html
・ヤバい経済学 ─悪ガキ教授が世の裏側を探検する
http://www.ringolab.com/note/daiya/2006/07/post-411.html
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