ルポ 貧困大国アメリカ
新書大賞2009の第1位受賞作。多くの読者のアメリカを見る目が変わる、だろう。
「アメリカ国勢調査局の2006年度における貧困の定義は、四人家族で世帯年収が二万ドル(220万円)以下の世帯を指し、その家庭の子どもを「貧困児童」とする。同局が発表したデータ(U.S. Sensus Bureau 2005)によると、2005年度のアメリカ国内貧困率は12.6%、うち十八歳以下の貧困児童率は17.6%(約六人に一人)で、2000年から2005年の間に11%上昇した。これは五年間で新たに130万人の貧困児童が増えた計算になる。」
米国では2005年時点で国民の12%が飢餓状態を経験している。貧困層は低賃金で不安定な雇用につきながら、無料給食プログラムのフードスタンプで食いつなぐ。高額の医療費も彼らを苦しめる。たとえばニューヨークで盲腸で1日入院すると243万円も医療費がかかるという事実に驚かされる。貧困の顔が見える取材ルポからは、この国ではお金がないと生き残るだけで大変な悲惨な国であることが見えてくる。
若者達は大卒の学位を得て貧困から脱したいと願うが、軍はそうした高校生を奨学金や医療保険を餌にリクルーティングして戦争へ派遣する。巨大な民間軍需産業は貧困層を戦地へ「派遣のお仕事」に送ることで莫大な利益を得ている。貧困層搾取で吸い上げられたマネーは一層の格差拡大につながる体制の強化につながっていく。
「教育」「いのち」「暮らし」という、国民に責任を負うべき政府の主要業務が「民営化」され、市場の論理で回されるようになった時、はたしてそれは「国家」と呼べるのか?」と著者は問う。
アメリカが絶望的なのはこのシステムの底に誰かの悪意があるというわけではないことである。レッセフェールで市場原理に未来を任せた当然の帰結として、こうなってしまったのだ。誰かや何かを打倒すれば解決するというのではないから根が深い。
この新書を一冊読むとアメリカの抱える問題の全体像が把握できる。貧困、サブプライム、肥満、カード地獄、医療、教育、民営化、学歴社会、民間軍需産業、個人情報、戦争など、ばらばらに語られることが多いアメリカのキーワードが、一つの世界観につながっていく。アメリカの凋落はまだ序の口で、これからが危ないのではないかと心配になる。
・アメリカ下層教育現場
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/02/post-923.html
・性と暴力のアメリカ―理念先行国家の矛盾と苦悶
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004747.html
・ルート66をゆく アメリカの「保守を訪ねて」
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004412.html
・エンジェルス・イン・アメリカ
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004715.html
・アメリカ 最強のエリート教育
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/002864.html
・現代アメリカのキーワード
http://www.ringolab.com/note/daiya/2006/10/post-464.html
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